労働政策研究・研修機構(JILPT)の第136回労働政策フォーラム「シニア層の労働移動~就労・活躍機会の拡大に向けて」が8、15両日、オンラインで開かれた。
同機構の藤本真副統括研究員が「労働市場における高齢者の就労について」と題して基調講演。シニアの就業機会は第3次産業・非正規セクターに限定されていること。転職は「縁故」の活用が中心で、経済的理由による転職者が多いものの、賃金は減少するケースが多い事実を紹介した。そのうえで、藤本氏は「情報収集・分析内容を高齢者に的確に伝えるルート・機会が必要」と指摘した。
次いで、リクルートの藤井薫・HR統括編集長が人材サービス業からの視点で報告。近年は55歳以上の転職者の増加が目立つものの、男性は契約形態が分散、女性はパート・アルバイトが大半であり、個々のシニアの「働き方と生きがいを両立させる多様な選択肢の整備が重要」と提言し、シニア側には「ポータブルスキルの高度化が重要」と述べた。
産業雇用安定センターの岡崎淳一理事長は「キャリア人材バンクにおけるシニア層のマッチング傾向と特徴」と題して、シニアの再就職事例を紹介。大企業から中小企業への転職が歓迎されているが、求められるスキルや職場環境の違いなどが課題となっている点を解説し、求人側と求職側両者のミスマッチを防ぐ努力を説明した。
15日のパネルディスカッションでは、高齢者活用に積極的な泰栄エンジニアリング社の椎名卓也氏▽すかいらーくの下谷智則氏▽京都ライフサポート協会の樋口幸雄氏らが参加して、先進事例を紹介した。
椎名氏は、同社エンジニアの2割が60歳以上であることから、「中途採用シニアと若手とのコミュニケーションを重視し、風通しの良い職場環境を構築している」と説明。下谷氏はシニアを含む「誰もが働きやすい職場」を目指し、採用シニアに対しては動画で自己学習できる環境を用意している。樋口氏は、異業種から福祉に飛び込んだシニア事例を紹介しながら、「仕事の内容は非常に広く、下の世代への影響も大きい」と効果を強調した。
人手不足の慢性化によってシニア層への期待は高まっているものの、定年延長に踏み切ったり、本気で戦力化を考えている企業はまだ少なく、今後に課題を残している。この日も、賃金水準に関する話はほとんど出ず、老齢年金や健康保険に絡む就労調整など、シニアの就労意欲を妨げている制度の問題点は議論にならなかった。