多様化する働き方に対応した労働基準法などの見直しを検討してきた厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」(荒木尚志座長)が24日、報告書を取りまとめた。早期に取り組むべき事項と中長期的に検討を進めるべき事項に分けた報告書で、早期検討課題に挙げた副業・兼業の労働時間通算による「割増賃金規定」の見直しなどについて、年明けから労働政策審議会労働条件分科会の場で公労使が法改正に向けた議論を開始する=写真。
同研究会は、経済学者らによる「新しい時代の働き方に関する研究会」(今野浩一郎座長)の報告書を引き継ぐ形で今年1月に発足。公労使で構成する労政審の議論にのせる"前段"となるテーブルで、法律の専門家らで構成した。主に「労働時間法制」「労基法上の事業・労働者」「労使コミュニケーション」などに焦点をあて、全16回にわたり多面的な視点から考察を重ねてきた。新たな視点による労基法の見直し議論とあって、報道機関や雇用労働分野の士業、研究者らの関心は高く、いずれの会合も70人を超える傍聴者で埋まった。
報告書は、労基法の意義、現下の情勢、構造的課題を示したうえで、全ての働く人が心身の健康を維持しながら幸せに働き続けることのできる社会を目指す「守る」の視点と、働く人の求める働き方の多様な希望に応えることのできる制度を整備する「支える」の視点で、「多様な働き方を支える仕組み」を検討したことを明記した。具体的には、労基法における「労働者」「事業」の整理や労使コミュニケーションのあり方のほか、労働時間法制の課題を明らかにして見直しの方向性をまとめている。
報告書策定にこぎ着けたことを踏まえて、荒木座長は「働く人々の多様化、働き方の多様化、これを取り巻く環境の変化などを受けて、労働基準法を中心としつつも、それに限定されず、関連する個別の関係労働法制や集団的労使関係も視野に入れて将来の労働法制全体を見通しながら大きな議論をさせていただいた」と総括。「これまでは労働時間の長さに対する規制に議論が集中していたところ、本研究会では労働から解放される時間の規制、休日規制や勤務間インターバル規制、つながらない権利などについて新たな政策の方向性を打ち出せた」と成果を強調して、研究会委員と事務局にお礼を述べた。
委員は、荒木尚志氏(東大大学院法学政治学研究科教授)、安藤至大氏(日大経済学部教授)、石﨑由希子氏(横国大学院国際社会科学研究院教授)、神吉知郁子氏(東大大学院法学政治学研究科教授)、黒田玲子氏(東大環境安全本部准教授)、島田裕子氏(京大大学院法学研究科教授)、首藤若菜氏(立教大経済学部教授)、水島郁子氏(阪大理事・副学長)、水町勇一郎氏(就任時・東大社会科学研究所比較現代法部門教授、現在・早稲田大学法学学術院法学部教授)、山川隆一氏(明大法学部教授)の10人が務めた。
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