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2014年1月17日

派遣法「再改正」議論で、厚労省が報告書案提示  労政審需給制度部会

 労働者派遣法の「再改正」に向けた議論が最終局面を迎えている労働政策審議会労働力需給制度部会(鎌田耕一部会長)で、事務局の厚生労働省は、昨年12月に提示された公益委員案を一部補強する内容の報告書案をまとめ、17日午前10時から始まった会合に示した。

 報告書案では冒頭、再改正の理念と方向性となる「基本的な考え方」として、「分かりやすい制度(簡素化)」、「キャリアアップ措置を含む労働者保護」、「悪質事業者の排除と優良事業者の育成」――の3点を明記している。また、「派遣事業の果たしている役割の評価」と同時に、「派遣労働者の雇用安定と処遇改善への責務」も記した。

 この報告書案の作成にあたっては、労使双方の意見の隔たりが大きいため、最終調整が難航し越年審議となっていた。09年12月の極端な規制強化の「諮問→答申」を繰り広げた労政審とは逆の展開であり、今回は労働者側の不満が大きい。最終的には使用者側、労働者側の双方が主張は維持しつつも、帰着に向けて互いに「譲る」姿勢をみせ軟着陸する模様だ。

 報告書案の全文は以下の通り。 


労働者派遣制度の改正について(報告書(案))

Ⅰ 基本的考え方

1 労働者派遣制度については、平成24年改正労働者派遣法の国会審議の際の附帯決議において、その制度の在り方について検討するとともに、派遣労働者や派遣元・派遣先企業に分かりやすい制度とすることが求められている。

2 また、労働者派遣事業が労働力の需給調整において重要な役割を果たしていることを評価した上で、派遣労働者のキャリアアップや直接雇用の推進を図り、雇用の安定と処遇の改善を進めていく必要がある。

3 さらに、業界全体として、労働者派遣事業の健全な育成を図るため、悪質な事業者を退出させる仕組みを整備するとともに、優良な事業者を育成することが必要である。

4 以上のような考え方に基づき労働者派遣法を改正し、以下のような具体的措置を講じることが必要である。

Ⅱ 具体的措置について

1 登録型派遣・製造業務派遣について

 経済活動や雇用に大きな影響が生じるおそれがあることから、禁止しないことが適当である。
 ただし、これらの派遣労働に従事する者については、雇用が不安定になることを防ぐため、後述の雇用安定措置等を講ずるものとすることが適当である。

2 特定労働者派遣事業について

 特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業の区別を撤廃し、すべての労働者派遣事業を許可制とすることが適当である。
 その際、派遣労働者の保護に配慮した上で、小規模派遣元事業主への暫定的な配慮措置を講ずることが適当である。
 また、現在の特定労働者派遣事業の許可制への移行に際しては、経過措置を設けることが適当である。

3 期間制限について

(1)新たな期間制限の考え方
 労働者派遣事業は、労働市場において、労働力の迅速・的確な需給調整という重要な役割を果たしている。その一方で、派遣労働の雇用と使用が分離した形態であることによる弊害を防止することが適当である。すなわち、派遣労働者の雇用の安定やキャリア形成が図られにくいことから、派遣労働を臨時的・一時的な働き方と位置付けることを原則とするとともに、派遣先の常用労働者(いわゆる正社員)との代替が生じないよう、派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限ることを原則とすることが適当である。
 また、派遣労働への固定化及び常用労働者との代替の防止のためには、後述する直接雇用や均衡待遇の推進及びキャリアアップ措置を併せて講じることも有効である。
 26業務という区分及び業務単位での期間制限は、分かりにくい等の様々な課題があることから撤廃し、26業務か否かに関わりなく適用される共通ルールを設けることとした上で、雇用の安定やキャリアアップが図られる等の一定の条件を満たすものを除き、派遣労働者個人単位と派遣先単位の2つの期間制限を軸とする制度に見直すことが適当である。その際、期間制限が派遣労働者の雇用の機会やキャリア形成に悪影響を与えないよう、必要な措置を講ずることが適当である。
 また、制度見直しの時点で現に行われている26業務への派遣については、新制度への移行に際して経過措置を設けることが適当である。

(2)個人単位の期間制限について
 派遣先は(5)で述べる例外を除き、同一の組織単位において3年を超えて継続して同一の派遣労働者を受け入れてはならないものとすることが適当である。
 組織単位は、就業先を替わることによる派遣労働者のキャリアアップの契機を確保する観点から、業務のまとまりがあり、かつ、その長が業務の配分及び労務管理上の指揮監督権限を有する単位として派遣契約上明確にしたものとすることが適当である。
 派遣先が、同一の組織単位において3年の上限を超えて継続して同一の派遣労働者を受け入れた場合は、労働契約申込みみなし制度の適用の対象とすることが適当である。

(3)派遣労働者に対する雇用安定措置について
 派遣元事業主は、(2)の上限に達する派遣労働者に対し、派遣労働者が引き続き就業することを希望する場合は、以下の措置のいずれかを講ずるものとすることが適当である。

 ① 派遣先への直接雇用の依頼
 ② 新たな就業機会(派遣先)の提供
 ③ 派遣元事業主において無期雇用
 ④ その他安定した雇用の継続が確実に図られると認められる措置
※ ①から④のいずれを講じることも可とする。①を講じた場合に、直接雇用に至らなかった場合は、その後②から④のいずれかを講ずるものとする。

 1年以上継続して派遣先の同一の組織単位に派遣された派遣労働者が、上記(2)の派遣期間の上限に達する前に当該組織単位での派遣就業を終了する場合であって、派遣元事業主は、派遣労働者が引き続き就業することを希望するときには、上記①から④の措置のいずれかを講ずるよう努めるものとすることが適当である。
 派遣先は、上記(2)の派遣期間の上限に達する派遣労働者について、派遣元事業主から①の直接雇用の依頼があった場合であって、当該派遣労働者を受け入れていた事業所で従事させるために労働者を募集するときは、当該情報を当該派遣労働者に周知するものとすることが適当である。
 また、派遣先は、1年以上継続して同一の組織単位に派遣された派遣労働者について、派遣元事業主から①の直接雇用の依頼があった場合であって、当該派遣労働者が従事していた業務と同一の業務に従事させるため労働者を雇用しようとするときは、当該派遣労働者に対し労働契約の申込みをするよう努めるものとすることが適当である。

(4)派遣先における期間制限について
ア 過半数組合等からの意見聴取
 派遣先は、(5)で述べる例外を除き、同一の事業所において3年を超えて継続して派遣労働者を受け入れてはならないものとすることが適当である。
 派遣先が、事業所における派遣労働者の受入開始から3年を経過するときまでに、当該事業所における過半数労働組合(過半数労働組合がない場合には民主的な手続により選出された過半数代表者。以下「過半数組合等」)から意見を聴取した場合には、さらに3年間派遣労働者を受け入れることができるものとすることが適当である。その後さらに3年が経過したとき以降も同様とすることが適当である。
  意見聴取にあたり、派遣先は、当該事業所における派遣労働者の受入開始時からの派遣労働者数と無期雇用労働者数の推移に関する資料等、意見聴取の参考となる資料を過半数組合等に提供するものとすることを指針に規定することが適当である。

イ 適正な意見聴取のための手続
  過半数代表者は、管理監督者以外の者とし、投票、挙手等の民主的な方法による手続により選出された者とすることが適当である。
  過半数組合等が、常用代替の観点から問題があり、現在の状況を是正すべきとの意見を表明した場合は、派遣先は、当該意見への対応を検討し、一定期間内に過半数組合等に対し対応方針等を説明するものとすることが適当である。
  派遣先は、意見聴取及び対応方針等の説明の内容についての記録を一定期間保存するとともに、派遣先の事業所において周知するものとすることが適当である。
 派遣先による過半数代表者への不利益取扱いを禁止することが適当である。  
                             
(5)期間制限と常用代替防止措置の特例について
   以下に該当する者及び業務に関する派遣について(2)から(4)の措置の対象から除外することが適当である。
 ① 無期雇用の派遣労働者                 
 ② 60歳以上の高齢者
 ③ 現行制度において期間制限の対象から除外されている日数限定業務、有期プロジェクト業務、育児休業の代替要員等の業務
  派遣元事業主は、無期雇用の派遣労働者を派遣契約の終了のみをもって解雇してはならないことを指針に規定することが適当である。
 有期プロジェクト業務に係る派遣については、終期が明確である限り派遣期間を制限しないことが適当である。

4 直接雇用の推進について

  派遣元事業主は、雇用する派遣労働者の希望に応じ、派遣労働者以外の労働者として雇用されることができるように雇用の機会を確保し、これらの機会を提供するよう努めることとすることが適当である。

5 派遣先の責任について

  国は、派遣先の使用者性に関する代表的な裁判例及び中労委命令について、整理を行った上で周知することが適当である。
  派遣先が適切かつ迅速な処理を図るべき苦情の内容として、派遣先におけるセクハラ・パワハラ等を指針に例示することが適当である。また、派遣先が苦情処理を行うに際しては、派遣先の使用者性に関する代表的な裁判例や中労委命令に留意することを指針に規定することが適当である。
  国は、派遣先責任者講習の受講を促進するための施策を講ずるものとすることが適当である。

6 派遣労働者の処遇について

(1)均衡待遇の推進
ア 賃金について
   派遣先は、派遣元事業主の求めに応じ、派遣元事業主に対し派遣労働者と同種の業務に従事する労働者の賃金に係る情報提供等の適切な措置を講ずるよう配慮するものとすることが適当である。
  以下の内容について、指針に規定することが適当である。
 ・派遣先は、派遣料金を決定する際に、就業の実態や労働市場の状況等を勘案し、派遣される労働者の賃金水準が派遣先の同種の業務に従事する労働者の賃金水準と均衡が図られたものとなるよう努めるものとする。
 ・派遣先は、派遣契約を更新する際に、就業の実態や労働市場の状況のほか、派遣労働者が従事する業務内容や当該派遣労働者に要求する技術水準の変化を勘案して派遣料金を決定するよう努めるものとする。
 ・派遣元事業主は、派遣料金が引き上げられたときは、それをできる限り派遣労働者の賃金の引上げに反映するよう努めるものとする。
 ・派遣元事業主は、派遣先との派遣料金の交渉が派遣労働者の待遇改善にとって重要であることを踏まえ、交渉にあたるよう努めるものとする。
 ・派遣元事業主の通常の労働者と有期雇用の派遣労働者との通勤手当の支給に関する労働条件の相違は、労働契約法第20条に基づき、諸般の事情を考慮して不合理と認められるものであってはならない。

イ 教育訓練について
 派遣先は、派遣先の労働者に対し業務の遂行に密接に関連した教育訓練を実施する場合は、一定の場合を除き、派遣元事業主の求めに応じ、同じ業務に従事している派遣労働者にも実施するよう配慮するものとすることが適当である。

ウ 福利厚生施設について
 派遣先は、受け入れている派遣労働者に対しても、派遣先の労働者が利用している一定の福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)の利用の機会を与えるよう配慮するものとすることが適当である。

エ その他
 派遣元事業主は、派遣労働者の均衡を考慮した待遇の確保の際に配慮した内容について、派遣労働者の求めに応じて説明するものとすることが適当である。

(2)労働・社会保険の適用促進
  派遣元事業主は、派遣労働者として雇用しようとする者に対し、労働契約の締結の際に、労働・社会保険の加入資格の有無を明示するものとすることが適当である。
  労働・社会保険に加入していない派遣労働者に対し、加入していない理由を通知することを定めた派遣元指針の内容を法律等に格上げすることが適当である。また、派遣開始後に労働・社会保険に加入させる場合について、派遣元事業主は、一定期間内に派遣先に対し加入の通知を行うものとすることが適当である。
 派遣元事業主は、社会保険に加入させた上で労働者を派遣する場合は派遣の開始までに、派遣の開始後に加入させる場合には加入後速やかに、派遣先に当該派遣労働者の被保険者証等の写しを提示すること等により、派遣先が加入の事実を確認することができるようにすることが適当である。

7 派遣労働者のキャリアアップ措置について

(1)派遣元事業主が講ずべき措置
 派遣元事業主は、雇用する派遣労働者に対して、計画的な教育訓練を実施するほか、希望する派遣労働者に対してはキャリア・コンサルティングを実施するものとし、特に無期雇用の派遣労働者に対しては、長期的なキャリア形成を視野に入れてこれらを実施するものとすることが適当である。
 労働者派遣事業の許可・更新要件に「派遣労働者へのキャリア形成支援制度を有すること」を追加することが適当である。キャリア形成支援の具体的な在り方については指針に規定することが適当である。
 派遣元事業主が行うキャリアアップ措置の取組については、労働者派遣事業報告により把握することが適当である。
 キャリアアップ措置を適切に実施することを派遣元責任者の責務に追加することが適当である。

(2)派遣先が講ずべき措置
 派遣先は、派遣元事業主の求めに応じ、受け入れている派遣労働者の職務遂行状況や職務遂行能力の向上度合に関する情報を派遣元事業主に提供するよう努めるものとすることが適当である。

(3)紹介予定派遣の推進
 紹介予定派遣を推進するため、派遣元事業主が職業紹介事業の許可を申請する際の手続の簡素化等を進めることが適当である。

(4)派遣先での正社員化の推進
 派遣先は、新たに正社員の募集を行う場合は、募集を行うポストがある事業所に1年以上受け入れている派遣労働者に対して当該募集情報を周知するものとすることが適当である。

(5)国及び事業主団体の責務
 国及び事業主団体は、派遣労働者のキャリアアップのための必要な環境整備を行う責務を有するものとすることが適当である。

(6)派遣先による直接雇用への対応
 関係者間でのトラブルの発生を未然に防ぐ観点から、派遣先が派遣契約の終了直後に、受け入れていた派遣労働者を直接雇用しようとする際の取扱いについて、派遣契約に定めるものとすることが適当である。

8 平成24年改正法について

 平成24年改正法の規定については、施行状況についての情報の蓄積を図りつつ、見直しについて引き続き当審議会において検討を行うことが適当である。
 一方、日雇派遣の原則禁止については、以下の観点に留意しつつ、法改正を行わずに実施できる見直しについて、今回の制度全体に係る見直しと併せて実施することを検討することが適当である。
  ① 労働者が日雇派遣による収入に生計を頼ることがないようにしつつも、現在の年収要件を見直すことにより雇用の機会を拡大すること
  ② 教育訓練を十分に受けていない労働者が日雇派遣に従事することによる労働災害の発生を防ぐこと
 なお、今回の見直しによる業務単位での期間制限の撤廃後も、日雇派遣の原則禁止の例外であるいわゆる17.5業務については引き続き政令に規定することが適当である。

9 特定目的行為について

 無期雇用の派遣労働者に対する特定目的行為を可能とし、その際には、年齢や性別を理由とする差別的取扱いの禁止規定を整備することが適当である。また、派遣先による事前面接は、派遣元事業主が自らの責任において選んだ無期雇用の派遣労働者に対して行うもののみが認められ、派遣先が複数の候補者の中から派遣される者を選別する行為は認められないことを指針に規定することが適当である。

10 指導監督の強化等について

(1)無許可事業所に対する指導監督について
 無許可で労働者派遣事業を行う者に対する行政上の措置を強化することが適当である。

(2)初回の更新時のチェックの強化について
 労働者派遣事業の許可の取得後最初の許可更新の際に、当該更新を受けようとする派遣元事業主が許可基準を満たしていることを当審議会に報告することが適当である。

(3)優良な派遣元事業主の推奨等について
 労働力の需給調整という労働者派遣事業の役割が適切に発揮されるためにも、悪質な派遣元事業主に対する指導監督を強化するとともに、優良な派遣元事業主を認定し推奨する事業を推進していくことが適当である。
 派遣元責任者の要件として、派遣元責任者講習の受講を規定することが適当である。

11 上記以外の事項

(1)関係法制度の必要な整備について
 この他、関係法制度について、必要な整備がなされることが適当である。

(2)施行期日について
 施行期日は、平成27年4月1日とすることが適当である。

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