働く高齢者は毎年、増えつつあり、人手不足にあえぐ日本の企業・社会を底支えしている。急速に進む少子高齢化の必然的な成り行きだが、高齢者を囲む就労環境は必ずしも十分ではなく、今後に大きな課題を残したままだ。(報道局)
総務省がこのほど発表した「統計からみた我が国の高齢者」によると、今年9月時点で日本の総人口1億2376万人(前年比59万人減)に対して、65歳以上の高齢者は3625万人(同2万人増)となり、総人口に占める比率は29.3%(同0.2ポイント増)。人口も比率も過去最高となった。このペースが続くと、40年には35%近くになると予想される。
高齢人口の増加は、医療・介護、年金などの社会保障費の増加につながる一方、元気な高齢者の就労も増えている。23年の高齢就労者は914万人(同2万人増)と20年連続で増え、13年当時の637万人から1.4倍になった=グラフ。全就業者に占める割合も13.5%(同0.1ポイント減)で、やはり10年前より3.4ポイントも上昇している。およそ4人に1人が働いている計算だ。
ただ、幾つか転換期を示す兆候も出ている。23年の就労者は男性が534万、女性が380万人だが、女性の就労者は現在も増え続ける一方で、男性の場合は20年あたりから人数はほぼ横ばいのまま。就労者比率も19年に13.2%に達してから、それ以降は13.5%前後の横ばいが続いている。
人数の多い「団塊ジュニア」が高齢者の仲間入りをすると比率はさらに高まるものの、それ以降は横ばいか低減することも考えられる。現役世代が一段と少なくなり、高齢者パワーに頼る部分がさらに増える可能性がありそうだ。しかし、その一方で高齢者を取り巻く就労環境は、必ずしも良好ではない。総務省の同調査で役員を除く雇用者543万人の地位を見ると、「パート・アルバイト」が過半数の53%を占め、「正規社員」が23%、「契約社員」が10%、「嘱託社員」が7%などとなっており、高齢者の実に77%が非正規就労だ。
さらに、これを主要産業別にみると、「卸売り・小売業」が132万人で最も多く、「医療、福祉」が107万人、警備など「他のサービス業」が104万人、「農林業」が99万人の順。とりわけ、「医療、福祉」は10年前の2.4倍に増えており、高齢化に伴って需要が急増している介護分野に大量の高齢者が就労している様子がうかがえる。
高齢者に非正規が多く、職種もかなり偏っているのは、企業の「60歳定年制」が大きく関わっている。厚生労働省の「高年齢者雇用状況調査」(23年6月)によると、「継続雇用制度」を採用している企業が69%の多数を占め、「定年の引き上げ」は27%、「定年の廃止」は4%足らず。
その定年も、「60歳」が66%の多数を占め、公的年金の受給開始年齢にあたる「65歳」は24%と大きく低下。多くの企業が今も「60歳定年制」を採用しており、定年後も同じ会社で働く場合はパート・アルバイトや契約社員など、賃金の低い非正規で「継続雇用」されているのが実情だ。ここに大きな問題が生じている。
実際、60歳以上になると賃金は2割程度減ることが統計で示されている。その理由が定年前より仕事量や労働時間が減ったというのであればまだしも、定年後も仕事内容は全く変わらないまま、賃金だけ下げる企業も少なくない。これに反発した高齢者が会社を相手取って訴訟に及ぶケースも続出、名古屋市の自動車学校では指導員たちが「基本給が6割に減った」として係争中だ。賃金だけでなく、高齢社員には「会社に正当に評価されない」「お荷物扱いされる」という不満もくすぶり続けており、仕事へのモチベーションが下がる問題点も指摘されている。
問題の元凶は「定年制」にあり?
こうした問題が起こるのも、企業側が「定年制」を見直そうとしないため。定年制は高度成長期に定着した制度で、社員は年功序列制の人事・給与制の下で定年まで働く代わりに、定年後は公的・私的年金で悠々自適の老後を送ることができた。高齢者が退職しても、...
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