スペシャルコンテンツ記事一覧へ

2024年9月 9日

◆経済トピックス◆4~6月期の実質GDP、プラス転換

個人消費回復も、基調はまだぜい弱

 4~6月期の実質国内総生産(GDP、速報値)が前期比0.8%増、年率換算で3.1%増となり、1~3月期のマイナスからプラス転換したことで、政府が目指してきた「賃金と物価の好循環」が奏功し始めたとの見方が出ている(※9月9日に内閣府が年率換算でプラス2.9%に下方修正)。しかし、カギとなる個人消費の弱さは依然続いており、7~9月期以降もプラスが維持できるかどうかは不透明だ。(本間俊典=経済ジャーナリスト)

 プラス転換の最大要因は、GDPの過半を占める個人消費が実質1.0%増と実に5四半期ぶりのプラスに転じたこと。ただ、これは自動車業界の認証不正問題で生産停止となっていた1~3月期から、4~6月期は生産が再開された反動増という一時的要因が大きく、個人消費全体が回復したわけではない。

sc240909.JPG

個人消費は本格回復するか?

 総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の実質消費支出では4月こそ前年同月比0.5%のプラスだったが、5月はマイナス1.8%、6月もマイナス1.4%だった。大幅賃上げや夏のボーナス効果が期待された7月にようやくプラス0.1%とプラス転換したが、その勢いはまだ弱い。

 今春闘では平均賃上げ率が前年比5.1%と1991年以来33年ぶりの5%台(連合調査)に乗せる大幅アップとなり、これを受けて厚労省の毎月勤労統計でも、6月の実質賃金が同1.1%増と27カ月ぶりにプラス転換した。7月も同0.4%増と2カ月続けてのプラスになったため、賃金の上昇が物価上昇を上回る「賃金と物価の好循環」がようやく始まったとみる向きもある。

 しかし、家計にとってはまだ実感が伴わないようだ。7月の実質消費は全体の3割を占める「食料」がマイナス1.7%だったのをはじめ、「光熱・水道」もマイナス4.6%、「交通・通信」もマイナス4.3%。「教養娯楽」「教育」などのサービス支出が大きく伸びてプラス転換に寄与したものの、値上げが相次いでいる食品に対する支出は「家計防衛」のためあまり伸びなかった。

 一方で、GDPベースでは、4~6月期の実質「雇用者報酬」が前年比0.8%増と11四半期ぶりにプラス転換した点は注目される。昨年、今年と続いた大幅な賃上げ効果がようやく表れた形だ。毎月勤労統計における2カ月連続の実質賃金プラスは、月例賃金の上昇より夏ボーナスの上昇が高かったためであり、ボーナス効果が消える8月以降もプラスが持続するかどうか、まだ予断を許さない。

 7~9月期は夏ボーナス増と6月から実施された定額減税によって、家計の可処分所得は4~6月期以上に増えると予想される。ただ7、8月の猛暑が消費活動にどのような影響を及ぼしたか不透明な部分も多く、個人消費が2四半期連続で実質プラスになるかどうかは見通しがむずかしい。

人手不足が成長制約要因に

 ただ、「賃金と物価の好循環」のサイクルに入った可能性は十分あり、今後、これが持続するかどうかがカギになる。ここで好循環の大きな制約要因となっているのが、企業の人手不足だ。総務省によると、現在の日本の就業者数は6795万人、完全失業者数は188万人、完全失業率は2.7%(いずれも7月時点)と事実上の"完全雇用"状態となっている。

 労働力人口は6954万人で1年前より28万人ほど増えてはいるが、若年層の人口減少を考慮すれば、これ以上働く人々が増える可能性は少ない。今後は労働力を増やすことではなく、労働力の「質向上」を図り、労働生産性を上げる方向に舵を切らないと、GDPは伸びない。そのためには労働者のスキルアップを図り、収益力の低い企業から高い企業への労働移動を活発化する政策を集中的に実施する必要がある。

 同時に、中長期的には今も根強く残る「終身雇用」「年功序列」「定年制」などの雇用慣行を根底から見直す必要がある。これらは高度成長期に企業が従業員を囲い込むためにできた制度で、賃金体系も長期在社するほど有利な仕組みになっている。

 現代企業にはそこまでの余裕はなく、事業の再構築のために早期・希望退職を募る企業が増える一方、賃金カーブもフラット化してはいるが、定年制自体を見直す企業はまだ少ない。厚労省によると、「定年制廃止」企業は3.9%、「定年引上げ」企業も2.3%(23年)に過ぎす、大多数の企業は「60歳定年」後の社員を非正規として継続雇用しているのが実態だ。

 人手不足にあえぐ企業が多い一方で、旧来の雇用慣行を変えようとしない企業も多いということは、貴重な労働力を有効活用できず、労働生産性の上昇を阻害しかねない。政府による法改正を含む大胆な雇用制度の改革が必要な時期にきている。焦点となるのは...


※こちらの記事の全文は、有料会員限定の配信とさせていただいております。有料会員への入会をご検討の方は、右上の「会員限定メールサービス(triangle)」のバナーをクリックしていただき、まずはサンプルをご請求ください。「triangle」は法人向けのサービスです。


【関連記事】
実質賃金、2カ月連続のプラス
夏ボーナスが寄与、毎勤7月速報(9月5日)

7月有効求人倍率は1.24倍と4カ月ぶり上昇
新規求人微増(8月30日)

PAGETOP