国民生活に我慢を強いている実質賃金のマイナスはいつまで続くのか。厚生労働省の統計では4月もマイナスとなり、これで25カ月連続と"最長不倒"を更新した。ただ、今春闘の「大幅賃上げ」が奏功し始めており、プラス転換に向けた視界は良好になりつつある。(報道局)
厚労省が5日に発表した毎月勤労統計調査によると、4月速報の名目賃金は前年同月比2.1%増で28カ月連続のプラスだったのに対して、物価上昇分(CPI)を差し引いた実質賃金は同0.7%減と25カ月連続のマイナス。名目、実質とも2年以上に及ぶ長期間の"足踏み状態"が続いている。実質賃金のマイナスは生活水準の低下を意味し、国民の消費意欲が盛り上がらない最大要因となっている=グラフ。
ただ、4月の結果を詳細に見ると、わずかな変化も出てきた。実質賃金のマイナス幅がこれまでの2%前後から0.7%に大幅縮小したこと。物価上昇が2.9%と3%台に近い一方で、名目賃金がこれまでの1%前後から2.1%の高い伸びになったことが縮小の主要因と考えられる。
名目賃金の柱である所定内給与(基本給)が4月は2.3%伸び、これまでの1%台から大きく上昇した。1994年10月以来の高い伸びだが、言うまでもなく今春闘で大企業を中心にした大幅賃上げの影響が現われた結果と言える。
連合が5日にまとめた最新の春闘6回目集計では、回答企業の平均賃上げ額は1万5236円(賃上げ率5.08%)。5000近い労働組合の約289万人分をカバーしており、前年同期より1.42ポイント上回った。
企業規模では、従業員300人以上の中堅・大企業が1万5784円(同5.16%)なのに比べ、同300人未満の中小企業は1万1361円(同4.45%)と少し低い。ただ、5月末時点の結果としては、どちらも比較可能な13年以来、金額、賃上げ率とも最も高い水準を維持している。
低迷する個人消費
これに対して、さらに規模の小さい中小・零細の場合はどうか。日本商工会議所が5日に発表した調査では、全国1979社の賃上げ(正社員)は平均9662円(同3.62%)で、従業員20人以下では8801円(同3.34%)とさらに下がっている。回答企業の半数が20人以下の零細企業であり、組合のない企業も多いことを考えると、経営者の相当な努力の跡がみられる。
だが、大手並みに4%以上を賃上げした企業は3割余にとどまり、残る6割強は4%未満。19.5%が1%未満で、5.2%が「賃下げ」している。全体に人手確保のための「防衛的」賃上げが6割ほどを占めるなど、中小・零細の"台所事情"を浮き彫りにしている。来年以降の賃上げは不透明で、物価上昇によるコスト増を製品価格に転嫁できる環境整備が持続の可否を握るとみられる。
4月の毎月勤労統計には、早期回答した企業の賃上げ分しか反映されていない可能性が高く、5月以降はさらに高まるとみられる。また、6月以降は夏のボーナスが支給される時期で、賃上げ不足分をボーナスで補填する企業も多いと予想されることから、賃金をめぐる環境は力強さに欠けるものの、かなり好転しつつあるようだ。
4月以降の消費マインド回復へ正念場
政府・日銀が目指す「賃金と物価の好循環」では、具体的な数字として「賃金4%、物価2%」程度の上昇を念頭に置いているとされる。さらに、...
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