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2024年5月27日

「育成就労創設」「永住許可適正化」法案の審議経過と着眼点

「移民政策か否か」「税や保険料未納の対応」も争点

sc240527.jpg 「政治とカネ」で幕を開けた第213回通常国会は、6月23日に会期末を迎える。終始、劣勢に立たされている政府・与党だが、新年度予算を3月末までに成立させ、重要広範議案に指定された「育成就労創設・永住許可適正化」「子ども・子育て支援金」「セキュリティー・クリアランス創設」「食料安全保障強化」の4法案も、所管の常任委員会で着実に審議を進めている。会期末まで残り1カ月を切ったなか、外国人技能実習制度の抜本改正を軸とする「育成就労創設・永住許可適正化」の審議経過と成立に向けた着眼点を整理する。(報道局)

sc240311.png 野党の要求によって通常国会では4つの法案が重要広範議案(重範)に指定され、慣例として重範は衆参の委員会審議の節目で首相が質疑に応じなければならない。在留資格「技能実習」に代わる「育成就労」創設や永住許可の適正化、不法就労助長罪の厳罰化をセットにした政策は、出入国管理・難民認定法(入管法)と技能実習適正化法を改正して実現を図る。運用開始は公布後3年以内となっており、今国会で成立すれば2027年の運用開始が見込まれる。

 この法案を巡っては、単なる制度の見直しという枠に留まらず、「事実上の移民政策ではないのか」「共生社会の整備が遅れていないか」といった国家百年の計にかかわる政策テーマとして注目度が高い。まず、衆院から参院審議入りまでの国会審議の経過をたどり、要所を押さえておく。

【4月16日】衆院本会議=小泉龍司法相が法案の趣旨説明。与野党5議員が質問に立ち、岸田文雄首相と小泉法相が答弁した。転籍の際に職業紹介事業者を関与させないとした理由について、小泉法相は「人材の過度な引き抜きが生じないよう、当分の間は民間事業者の関与を認めない」と答弁。また、永住許可の適正化について岸田首相は「一部において永住許可後に税や保険料を納付しなくなるケースがあり、これを容認すれば公的義務を履行している永住者や地域住民との間で不公平感が増す」とした。

【4月23日】衆院法務委員会=小泉法相が法案の趣旨説明をして散会。

【4月24日】衆院法務委員会=実質審議入り。与野党10委員が質問に立ち、「育成就労」創設を巡って政府の見解を質した。小泉法相は在留カードと個人番号カードの手続きが別の行政機関で行われている煩雑さを解消するため、両カードを一体化する考えを示した。また、国際的な人材獲得競争が激しさを増している現状を踏まえ、「魅力ある働き先として選ばれる国になれるよう、外国人が就労しながらキャリアアップできるわかりやすい制度に改める」と強調した。

【4月25日】立憲が対案となる「外国人一般労働者雇用制度の整備の推進に関する法律案」を提出。悪質な民間ブローカーの排除を目的に、外国人労働者の人権尊重や適正な雇用管理の必要性のほか、受け入れ状況に応じて分野や地域ごとに人数の上限を設ける内容。

【4月26日】衆院法務委員会=参考人招致を実施。是川夕氏(国立社会保障・人口問題研究所国際関係部長)、上林千恵子氏(法政大学名誉教授)、岡部みどり氏(上智大学法学部国際関係法学科教授)、原英史氏(政策工房代表)を招いて見解や提言を聞いた後、与野党5委員が質問に立ち、新たな制度のあり方や課題を多面的に考察した。

【5月8日】衆院法務委員会=春の大型連休を挟んで12日ぶりに再開。与野党11委員が質問に立った。「育成就労」に関する質疑だけでなく、永住者が税金や社会保険料を故意に支払わなかった場合、永住許可の取り消しを可能とする見直しに野党が疑問を呈した。政府は永住許可申請の書類の一部を調べた結果、23年1~6月に審査を終えた1825件のうち、未納は235件(12.8%)あり、内訳(重複含む)は住民税31件、国民健康保険15件、国民年金213件、その他4件と明らかにした。 
 立憲委員は「十分な議論もないまま永住許可を奪うことは、外国人労働者に選ばれない国になることにつながる」と指摘した。

【5月10日】衆院法務委と厚労委の連合審査会=運用においては厚生労働の範疇も多分にあるため、合同審査を実施。「実質的な移民政策ではないのか。どうして認めないのか」と野党委員が質問。小泉法相は「一般的に移民政策というイメージは、欧州などでみられる期間を定めずに家族の帯同で移り住んでもらうカタチではないか。それに対して今回の新制度は、門戸を広げてもっと長く住んでもらうという意味では国を開くものだが、分野が限られて上限があって家族帯同も慎重に検討する」と説明し、移民政策の指摘は当たらないとの姿勢を強調した。

【5月14日】衆院法務委員会=与野党10委員が、永住許可の適正化や不法就労助長罪の厳罰化について、運用面での課題を指摘するなど議論を深めた。

【5月15日】衆院法務委員会=岸田首相入りで審議を続行。岸田首相は答弁のなかで「近年のわが国の労働力不足は深刻。外国人材が経済社会の重要な担い手になっている一方、国際的な人材獲得競争は一層激しさを増している」としたうえで、「わが国が魅力ある働き先として選ばれる国になるという観点から、外国人が就労しながらキャリアアップできるわかりやすい制度に改める」と強調した。

【5月17日】衆院法務委員会=自民、公明両党などの賛成多数で可決。永住者が故意に納税や社会保険料の納付を怠った場合に永住許可を取り消すことができる見直しに関しては、立憲と維新が付則に配慮規定を盛り込む修正で合意し、立憲は修正のみ賛成した。

【5月21日】衆院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決。

【5月24日】参院本会議=小泉法相が法案の趣旨説明の際、衆院において施した付則の修正に言及し、「大都市圏に過度に集中して就労することのないよう必要な措置を講ずる」「定住者の在留資格の取り消し規定の適用にあたっては、十分配慮する」ことなど修正6項目を説明した。続いて、与野党5議員が質問に立ち、岸田首相と小泉法相が答弁した。

「利害の一致しない」ステークホルダーが法案の行方を注視

 「現場実態に即した見直し」を前面に掲げ、制度や仕組みを再構築するが、働く当事者だけでなく、労働力として受け入れる企業、仲介する監理団体、外国人就労にネガティブなイメージを抱く世論、逆に「共存社会」を望む声、都市と地方の自治体など、「利害の一致しない」あらゆるステークホルダーが法案の行方を注視している。国会審議は後半戦に入ったが...


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【資料・最新版】改正法の概要

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