来春、大学卒業予定の学生の就職内定競争が一段と加速している。現下の人手不足に加えて、減少が続く若年労働力の確保をにらんだ企業側の焦りを反映したものだが、政府が音頭を取っている「就職協定」の形骸化は誰の目にも明らかになっており、日本企業の「新卒一括採用」手法は大きな曲がり角に来ている。(報道局)
リクルートの調査によると、4月1日時点の大学生の内定率は58.1%(前年同期比9.7ポイント増)に達している。コロナ後は毎年、10ポイントほどのペースで内定率が急上昇しており、企業側の"前倒し"傾向が加速している。内定企業の業種は情報・通信業を筆頭に、機械器具製造業、それ以外の製造業などで多く、企業規模は従業員1000人〜4999人の大企業が最も多い。
キャリタス(旧ディスコ)の調査でも4月1日時点の内定率は62.8%(同9.9ポイント増)、マイナビでも3月末時点の内定率は47.4%(同17.4ポイント増)と、いずれも昨年を大きく上回っており、前倒しが鮮明だ。このペースが続けば6月の採用活動解禁時には80%を超える可能性が高い。
ただ、学生側にとって、内定を得た企業は"滑り止め"にしているケースが多く、今後については「志望内容・範囲を変えずに就活」が39.8%、「より志望度の高い企業に絞って就活」が41.7%もある。合わせると8割を超え、「就活を終了する」はわずか5.3%しかない。「本命は別企業」との認識で就活を続ける学生の方が圧倒的に多いのだ。
これに対して、企業側は内定を出した学生の"囲い込み"に必死。内定者を定期的に集めて「事前研修」を実施したり、「就学補助」などの名目で"小遣い"を支給する一方、他企業に逃げられるのを防ぐ「オワハラ」「オヤカク」など、なりふり構わぬ手段に出る企業も少なくない。これらが学生の卒業論文など就学の妨げになっているとの指摘も強まっており、就活支援企業の担当者は「新卒確保に焦る企業が増えていることを痛感する」と話している。
こんな事態になっているのも、若者層の絶対的な労働力不足が背景にあるため。リクルートの推計によると、来年の企業の求人総数は約79.7万人(前年比2.4万人、3.1%増)に対して、就職希望者数は約45.5万人(同0.4万人、0.9%増)と大きな開きが生じている。この結果、求人倍率は平均1.75倍(同0.04ポイント増)と3年連続で上昇している。
ただ、こうした平均値と実態には大きな乖離がある。従業員5000人以上の大企業の倍率はわずか0.34倍にとどまり、1倍を超えるのは従業員5000人未満の企業に集中しているからだ。学生側の多くが「寄らば大樹の陰」と有名大企業を志向する傾向は変わらず、それが多くの企業の焦りを増幅させているのが実情だ。
しかし、大企業の場合であっても、近年は必ずしも社員にとって「安泰」とは言えない。業績不振や事業構造改革などで早期・希望退職を募る企業が相次いでいるからだ。近年だけでも資生堂は1500人、オムロンは1000人、イトーヨーカ堂は700人、大正製薬は645人など、かなりの規模で希望者の募集に踏み切った。
資生堂はコロナ禍に伴うインバウンド需要の激減により、「45歳以上&勤続20年以上」の中高年が対象。オムロンは中国事業の低迷により、「40歳以上&勤続3年以上」が対象。イトーヨーカ堂はスーパー事業の不振、大正製薬は医薬事業の不振などが主要因で、すでに応募が完了している企業もある。
東京商工リサーチによると、今年になって早期・希望退職者を募集した上場企業は4月まで21社、対象者は3724人に上り、企業数は前年比5社増、人数は3倍とすでに昨年1年間の人数を上回っている。賃上げ機運が高まっていることから、...
※こちらの記事の全文は、有料会員限定の配信とさせていただいております。有料会員への入会をご検討の方は、右上の「会員限定メールサービス(triangle)」のバナーをクリックしていただき、まずはサンプルをご請求ください。「triangle」は法人向けのサービスです。