労働市場の人手不足が深刻化する中、高齢者の就労は確実に増えて日本経済を下支えしている。しかし、就業分野のミスマッチや年金がらみの就労条件といった課題も多く、"本格活用"にはまだ遠いのが実態だ。(報道局)
総務省が昨年9月に発表した「我が国の高齢者(65歳以上)」によると、2022年の高齢就業者は約912万人の過去最多。毎年増えており、10年前の12年当時の約596万人から316万人、53%も増えた=グラフ。15歳以上の就業者に占める比率も13.6%の過去最高で、7人に1人を占めている計算だ。男性が約538万人、女性が約375万人で、10年前より男性は47%、女性は62%増と女性の伸びが著しい。
年代別にみると、就業者比率は「65〜69歳」が51%、「70〜74歳」が34%、「75歳以上」が11%といずれも過去最高。60代後半は約半数が仕事をしており、70代前半は3人に1人、75歳以上も10人に1人が仕事を続けていることになる。ただし、役員を除く雇用者約529万人の53%にあたる278万人がパート・アルバイトで、正社員は24%の125万人に過ぎない。
産業別で最も多いのは「卸・小売業」の127万人。次いで「その他サービス業」の105万人、「医療・福祉」の104万人、「農林業」の101万人など。とりわけ、「医療・福祉」は10年前の約2.7倍に増えており、介護サービス業の増加が女性就労の増加の背景にあることが鮮明になっている。
高齢者の就労が増えている最大の要因は、慢性的な人手不足と雇用年齢の相次ぐ延長措置による。とりわけ、介護・社会福祉事業では昨年11月時点の新規求人数(厚労省の一般職業紹介状況)は約14.5万人と全産業中で最も多い。00年度に始まった介護保険制度で介護施設などが増えた結果、ここに高齢女性がパート・アルバイトなどで雇用されているものの、今後も不足状況は変わりそうにない。
一方、男性の場合は高年齢者雇用安定法の改正により、企業などの雇用義務が60歳、65歳と徐々に延長され、21年度からは70歳までの雇用が努力義務化されたことが大きい。厚労省の23年「高年齢者雇用状況報告」によると、70歳までの就業確保措置を講じている企業はまだ全体の29.7%にあたる7万441社と少数だが、少しずつ増えてはいる。その大部分は「継続雇用制度の導入」で、定年制の廃止、定年延長などの措置は少数にとどまっている。
職種のミスマッチ解消がカギ
総務省の「我が国の高齢者(65歳以上)」では、仕事を持たない高齢者が希望する職種は男性が「専門的・技術的職業」が13万人で最も多く、女性は「サービス職業」が最多の14万人となっている。「事務職」も男女とも7万人前後の希望がある。しかし、企業側の求人では「事務職」は少なく、マンション管理や駐車場警備といった求人が多い。
男性の場合、長年の会社勤めで培ってきた専門スキルを生かせる仕事を望むのが普通だが、近年はIT・DXなどリスキリング(学び直し)の必要な業種の求人が多く、雇用のミスマッチも増えていると推測される。その意味では、現役時代から社会ニーズを意識して特定の技術を蓄積してきた人は有利だ。
ただ、高齢者の場合は老齢年金支給時期と強い関連があり、...
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