2024年の日本経済は「脱デフレ」が実現するかどうか、分かれ目の年になりそうだ。内閣府が発表した政府経済見通しでは、24年度の国内総生産(GDP)伸び率を名目3.0%、実質1.3%とした=表。23年度見込みの各5.5%、1.6%に比べ、どちらも伸び率は低くなるものの、消費者物価の上昇は適正範囲に収まり、内需主導によって名目が実質を上回る正常経済に戻るという予想だ。ただ、23年度は物価上昇に比べて「賃金の伸び」が追い付かず、国民が成長を実感できなかったことから、24年度は「賃金の伸び」がカギになることは確実だ。(本間俊典=経済ジャーナリスト)
24年度の政府見通し(実質ベース)の概要は民間消費が1.2%、設備投資が3.3%伸びる。23年度は新型コロナの5類移行に伴い、国民の行動制限の緩和が本格化。外国人のインバウンド需要を含む内外の個人消費が活発になると予想されたものの、物価上昇に賃金が追い付かず、実質民間消費は0.1%と低迷する見込みだ。
また、24年度の消費者物価(CPI)は2.5%、完全失業率は2.5%とみている。CPIは23年度見込みの3.0%から政府目標の「2%台」に落ち着くとの予想だ。雇用については人手不足の緩和が進まず、23年度と同じ「完全雇用」状態が続くとみている。想定通りとすれば、GDP額は名目で615兆円、実質で568兆円となる。名目では初めて600兆円台に乗り、実質も18年度の555兆円を上回る過去最高となる。
しかし、GDPが過去最高になるとの予想にもかかわらず、国民の景況感はそれほど良くなっていない。それは実質賃金のマイナスのためだ。厚生労働省の毎月勤労統計では、ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー価格が急騰した22年4月のマイナス1.7%から毎月1~1%台のマイナスで推移し、23年1月にマイナス4.1%のピークを付けた。その後、マイナス幅は縮めているものの、依然としてマイナス2%台のまま、10月まで実に19カ月連続でマイナスが続いている。実質賃金のマイナスは個人消費を萎縮させ、23年度は個人消費が振るわなかった。
今年の春闘で「大幅賃上げ」が実現し、10月からは最低賃金が前年比43円(4.5%)アップの平均1004円に大幅上昇したにもかかわらず、実質賃金は容易にプラス転換しそうもない。大幅賃上げが大企業・中堅企業では実現しても、雇用者の7割を占める中小・零細企業までは行き渡らないこと。最低賃金の大幅アップの恩恵を直接受けるのは、パート・アルバイトの一部に限られ、全体の賃金アップに結び付くには時間がかかること。これらの理由で、賃金上昇が物価上昇を上回るまでにタイムラグが生じている可能性が高い。
政府もこの点を強く意識し、今回の経済見通しでは「官民が連携した賃金上昇・所得増加による物価高の克服」や「潜在成長率向上につながる設備投資の拡大」を挙げている。具体的には、春闘で2年連続の大幅賃上げを促し、来年6月からの定額減税などの効果を見込んで、所得増加率を3.8%に設定した。設備投資も23年度見込みで100兆円の大台となりそうなことから、「企業の設投意欲は高い」とみているが、「足元の実績は伸びておらず、経済対策によって実際の投資につなげる必要がある」ともしており、多分に希望的観測も混じっている。
政府見通しに対して、民間シンクタンクなどの実質予想は24年度も総じて低い。ニッセイ基礎研は1.3%を予想しているが、日本総研は1.2%、三菱UFJリサーチは1.2%、第一生命経済研は0.7%など。物価上昇と賃金上昇の予測がむずかしいため慎重な見方が支配的で、仮に「賃金と物価の好循環」が生じるとしても24年度後半からとみるエコノミストが多い。
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