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2023年12月18日

施設経営赤字、低賃金で人材流出

「介護危機」表面化、報酬アップへ

 高齢者の介護施設で赤字が相次ぎ、人材流出が相次いでいることから、政府は介護職の待遇改善に動き出した。介護報酬の引き上げを中心に財政措置を急いでいるが、来年から「団塊の世代」全員が75歳以上の後期高齢者の仲間入りをするだけに、介護制度の抜本的な見直しを望む声が強まっている。(報道局)

 政府はこのほど、介護職の平均月収を6000円引き上げるため、今年度の補正予算に539億円を盛り込んだ。来年2~5月分が対象で、それ以降の分は2024年度の介護報酬の改定に反映させるため、厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会(田辺国昭分科会長)で審議中。24年度は診療報酬と介護報酬の同時改定期にあたり、現在、厚労省と財務省で折衝中だが、介護報酬については「1.59%」の引き上げで調整が進んでいる。

 厚労省が11月に発表した各種介護サービスの22年度「収支差率」(企業における利益率)は、全体では2.4%の黒字だったものの、施設サービスの中核である「介護老人福祉施設」(特別養護老人ホーム)は1.0%の赤字、「介護老人保健施設」も1.1%の赤字となり、01年の調査開始以来、初の赤字となった。人件費や光熱費などのコスト増が主な要因とみられるが、「施設介護は重大な危機に直面した」と関係者にショックを与えた。

 コスト増と同時に、介護職員の流出も大きな問題となっている。厚労省の統計によると、21年度は要介護認定者数約688万人に対して、介護職員数は約215万人。00年の介護保険法施行以降、介護の必要な高齢者の増加に対して、職員も着実に増えてきた。

 しかし、ほぼ一貫して賃金水準が低いまま推移してきており、他産業より離職率も高かった。22年の介護職員の平均月収は29.3万円で、全産業平均より6.8万円ほど低い。この格差を縮めるため、政府はこれまでにも補助金を出しており、今回の「月6000円アップ」の補正措置もこの格差を埋めるためだ。

 それでも、23年度は「賃上げ春闘」のおかげで全産業平均では3.58%の賃上げとなったが、介護職の場合は1.42%程度と推定され、格差が再び拡大しそうな情勢だ。厚労省が11月に公表した「賃金引上げ実態調査」では、全15産業の平均改定額が9437円(前年比3.2%増)だったのに対して、「医療、福祉」は3616円(同1.7%増)と金額、上げ幅とも最低だった。多少の報酬アップでは追い付けそうにないギャップだ。

sc231218.png これを嫌って人材の流出が相次いでいる。厚労省が8月に公表した22年「雇用動向調査」では、昨年の「医療、福祉」産業の入職者113.8万人に対して離職者は121万人と離職者が入職者を初めて上回った。このうち、「介護」分野だけをみると、約6万人以上の離職超過になったと推定され、要介護者は増える一方なのに、職員は減るという由々しき事態に直面していることがうかがえる。離職者への調査結果を見ると、待遇改善が必須なことがわかる=グラフ

「介護離職」の防止にも逆風

 このまま介護職員の減少が続けば、その分、家族らの負担が増えるのは確実だ。対応策として、政府はテレワークの推進などの対策を盛り込んだ育児・介護休業法の改正案を来年の通常国会に提出する。また、現在、多くの企業も「介護離職」防止に取り組んでいるが、介護職員の減少はこうした官民の努力に水を差すのは明らか。介護離職者は毎年10万人前後とみられているが...

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