フリーランスに対する労災保険の適用、短時間労働者に対する雇用保険の適用拡大など、これまで社会保険の適用外だった労働者の適用拡大の動きが活発化している。労働人口の減少下で、新しい就労形態が急速に伸びており、「男性正社員中心主義」を前提に成り立っていた旧来の労働者保護制度では対応できないことが背景にある。(報道局)
労災保険や雇用保険などの適用拡大が課題と
なっている労働政策審議会=厚生労働省、
2023年9月26日
フリーランスは企業などに雇用される労働者ではなく、独立した事業主という法的位置づけのため、労働基準法などの保護を受けられない立場だ。政府が2020年に実施した調査によると、国内のフリーランス人口は約462万人、そのうち企業の業務委託を受けて働く人は6割の約273万人と推計されている。462万人という数字はアルバイトの489万人(総務省の労働力調査)に並ぶ規模だ。
現在、労災保険の対象になっているフリーランスは、実質的に企業に雇用されているとみなされる「配達員」など一部業種に限定されており、現在の加入者は70万人程度とみられる。これを、今後は「営業」「講師」「記事執筆」など、業務委託されて働く全業種のフリーランスが加入できるように拡大するものだ。
保険料率は現行の収入額の0.3%で、加入は任意。20日に開かれた労働政策審議会の労災保険部会で、厚生労働省が拡大方針を示し、了承された。厚労省は省令を改正し、来年秋の運用開始を目指す。加入すれば月数百円〜数千円の保険料で就労中にケガをしても給付が受けられるが、自己負担を嫌うフリーランスも多いため、どれくらいの加入になるかは未知数だ。
フリーランスを巡っては今年4月、「フリーランス新法」が成立し、業務委託する企業側に報酬額の明示や一方的な報酬減額の禁止などを義務づけた。合わせて、国会付帯決議では「疾病、障害、死亡、廃業などのライフリスク対策について検討する」(衆議院)、「労災保険の特別加入制度について、希望する全ての特定受託事業者が加入できるよう対象範囲を拡大する」(参議院)と対象の拡大を求めていた。
業界団体の「フリーランス協会」が19年に実施した当事者調査によると、フリーランスを選択しやすくするために必要なこと(複数回答)として、「出産、育児、介護などのセーフティーネット」を挙げた人が63.6%で最も多かったが、「労災保険」という回答も45.9%あった。加入希望についても、「加入したいと思ったことがある」という回答が68.3%に上り、特別加入制度(保険料の全額自己負担)での加入についても51.4%が「加入したい、前向きに考える」と答えていた(回答824人)。
一方、政府は雇用保険の加入要件である労働時間を現行の「週20時間以上」から「週10時間以上」に緩和する。これにより、パートなど短時間労働者で最大約500万人の加入が見込まれる。来年の通常国会に関連法案を提出、28年度の実施を目指す。政府の「次元の異なる少子化対策」の一環で、今年6月に閣議決定していた。
これを受け、労政審の職業安定分科会雇用保険部会で11月22日、厚労省が改正案を示した。働き方の多様化を踏まえ、短時間労働者でも雇用のセーフティーネットを強化して収入を安定させ、安心して出産や子育てができる環境を整備するのが狙いだ。
雇用保険に加入すると、労働者と企業の合計で賃金の1.55%を保険料として支払い、このうち労働者の負担分は0.6%。加入すれば職を失った際の失業給付や、育休取得時に休業前の手取り収入額の実質8割を受給できる育休給付などの対象となる。現行制度は週20時間以上働き、31日以上の雇用見込みがある人が雇用保険の対象で、21年度末時点で約4400万人が加入。加入要件は徐々に緩和されているものの、「週20時間以上」については約30年間"据え置き"のままだった。
しかし、20時間未満で働く人は増える傾向にあり、厚労省によると22年は約718万人あり、うち女性が7割を占める。その半数が従業員100人未満の企業に勤めており、業種では卸売・小売業、医療・福祉、宿泊・飲食サービス業が多い。夫が家計を支え、妻が都合の良い時間にパート就労する形態が一般的だ。このため、雇用保険への加入については5割以上が「加入したくない」と答え、理由は「保険料の負担があるから」が多い。「加入したい」は4割強で、理由は「失業給付が受けられるから」が最多となっている。
保険財政の悪化に懸念も
ただ、適用対象が広がると雇用保険の収入増の半面、支出が拡大する可能性もある。コロナ禍の影響で雇用保険財政は厳しく、料率の引き上げも今後は検討課題となりそうだ。
雇用保険は失業率の低下によって給付が減り...
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