人手不足が深刻化する中で、家族らの介護のために会社を辞める「介護離職」が大きな社会問題になっている。政府もさまざまな法的制度を設けて防止に懸命だが、今のところ大きな効果を上げているとは言い難い。厚生労働省によると、家族の看護・介護を理由に離職した人は2007年調査(06年10月〜07年9月)で14万4800人に上った。12年は10万1100人に減ったが、17年は9万9100人、22年も10万6200人(いずれも「就業構造基本調査」による)で推移しており、毎年、10万人前後が離職していると推定される。(報道局)
離職者で、まず目立つのは男女の比率。06年度当時は男性が17.7%だったが、年々比率が上昇し、22年は24.7%に。また、年代別では22年の場合、「60〜64歳」が最多の21.4%を占め、以下、「55〜59歳」の17.4%、「50〜54歳」の15.3%。この三つの年代だけで過半数の54%を占めている。一方、介護をしながら就業している人も増えており、12年当時の291万人から17年は346.3万人、22年は364.6万人となっている。
高齢社会の進展とともに介護が必要な高齢者が増え、高齢者の子供らが仕事をしながら親の介護にあたり、中には離職を余儀なくされる人もいる。その中心は50〜64歳の世代で、近年は男性の離職者が増えていることが、調査からわかる。男性の場合、この世代は企業では管理職など重要な役職に就いている人が多く、企業にとって離職は大きな戦力ダウンになる。代わりの人材を探すにしても、専門性の高い人材が必要なことから、採用コストはかなり大きい。
一方、離職する側にとっても、介護期間が見通しにくいうえ、年齢的に復職の機会はほぼ閉ざされている。この点が出産・育児で離職する女性労働者との最大の違い、ということができる。企業にとっても社員にとっても、できれば離職は避けたいというのが実情だ。
同調査で介護離職と比べると、出産・育児による離職数は17年から過去5年間で約101万人と毎年20万人超に上り、介護離職者より数は多いが、その中心は非正規の女性であり、正規・非正規とも休業後の復職が増えている。問題は復職後の仕事の内容で、パート・アルバイトに就く人が圧倒的に多い点が大きな特徴になっている。
公的制度はあれども浸透不十分
こうした事情を受けて政府も育児・介護休業法(育介法)の改正を重ねてきた。主要なものでは(1)介護休業を最大93日、最大3回の分割取得ができる(2)介護休暇を年間5日取得でき、時間単位の取得も可能(3)残業の免除や時間外・深夜労働の制限(4)介護休業期間中に時短勤務やフレックスタイムなどの選択措置義務の採用、などがある。
介護休業の分割取得、時間外労働の制限、介護休暇の時間単位の取得などは、17年の育介法改正で実現したもの。介護は予想が立てにくく、介護方法を決めるまでに時間がかかること。しかし、要介護状態によっては長期休業や1日休暇を取る必要がなく、柔軟な取得方法によって就業を可能にすることが狙いだ。
しかし、こうした制度が広く浸透しているとは言い難い。離職した人に理由を聞くと、仕事を続けたかったが「勤務先の支援制度の問題や休業しにくい雰囲気があった」が43.4%に上り、同様に「介護保険や障害福祉サービスなどが利用できなかった、利用方法がわからなかった」が30.2%、「家族や親族の希望」が20.6%となり、「自分の希望」はわずか22.0%だった=複数回答、グラフ。
さらに、「勤務先の支援制度の問題や休業しにくい雰囲気があった」と回答した人に具体的に聞いたところ、「介護休業制度などの支援制度が整備されていなかった」が63.7%もあり、「制度を利用しにくい雰囲気があった」が35.4%、「制度の利用要件を満たしていなかった」が29.8%、「代替要員がおらず、制度を利用できなかった」が23.2%あった(複数回答)。公的な制度はあっても、企業レベルではまだ十分浸透しない実態が浮かび上がる。
労政審で育介法の見直し開始
こうした声に応えるため、厚労省は有識者による「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」(武石恵美子座長)を発足させ、...
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