国民生活のレベルダウンが止まらない。賃金の上昇が物価上昇に追いつかず、1年半にわたって実質賃金がマイナスのまま推移しているためだ。春闘で相次いだ「大幅賃上げ」が社会全体に波及せず、円安による物価上昇が"高止まり"したまま年末を迎えそうな情勢だ。これに「賃金と物価の好循環」を目標に掲げながら有効な政策をタイムリーに打ち出せない政府・与党の怠慢が拍車を掛けており、好循環への道筋は見えないままだ。(報道局)
厚生労働省の毎月勤労統計によると、従業員が5人以上の企業の労働者1人あたり現金給与総額は、8月速報値で28万2700円(前年同月比1.1%増)となり、20カ月連続のプラス。しかし、物価上昇分を差し引いた実質賃金指数(20年=100)は83.0(同2.5%減)で、17カ月連続のマイナス続きだ。
マイナス幅は1月の同4.1%を最大に、その後は縮小。春闘の賃上げ効果が出た5月は一時的に0.9%まで縮小したものの、6月以降は再び拡大している=グラフ。昨年来の物価上昇の勢いが止まらず、消費者物価指数(CPI)は1月の5.1%をピークにやや下がっているものの、依然として4%近い水準で推移しており、8月も3.7%と政府・日銀の予想を上回ったままだ。
当初はエネルギー価格の急騰が主要因だったが、今年は食品や外食などの日常品全般に波及し、多くのメーカーが小刻みの値上げを繰り返している。円安による輸入物価の上昇が大きな影響を及ぼしているが、政府・日銀は金利上昇による景気ダウンを恐れて円安是正に動こうとしない。政府はようやく20日に開く臨時国会に経済対策を出す予定だが、対応が後手に回ったこともあって効果を疑問視する声も少なくない。
今春闘では官民挙げて「大幅賃上げ」の大合唱となったが、結果はどうだったか。確かに、各種調査では経団連で1万3362円(前年比3.99%増)、連合で1万560円(5272労組、同3.58%増)、厚労省で1万1245円(同3.60%増)といずれも3%台後半の高い伸びとなった。しかし、経団連と厚労省は対象が大企業のみで、連合も対象人数は約288万人と、労働力調査における正規社員・従業員約3600万人の8%程度に過ぎない。
中小・零細企業まで含めた全体の賃上げ状況を反映しているとは言えず、毎月勤労統計における現金給与総額(名目賃金)の伸びは1%前後。5、6月は"春闘成果"で2.9%、2.3%に上昇したものの、7月以降は再び1%台に沈んだ。辛うじてプラスは維持しているが、賃上げの成果はほとんど出ておらず、今年の「大幅賃上げ」が極めて限定されたものだった可能性が高まっている。
値上げラッシュで実質消費も半年マイナス
これを反映して、消費活動も低調だ。総務省の家計調査によると、2人世帯以上の1世帯あたり消費支出は8月が29万3161円で、前年同月比は名目こそ1.1%増だが、実質は2.5%減で6カ月連続のマイナスとなっている。
最大支出項目の食料が...
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