企業の人材需要がひっ迫している。中途採用の求人数の伸びに対して、転職希望者数が伸び悩み、両者のギャップが拡大しているためだ。この流れは今後も続くとみられるが、すべての分野でひっ迫しているわけではなく、業種・職種によってかなりの開きがあるうえ、転職後の賃金の上昇も鈍く、「バラ色の転職市場」ばかりでない実情も垣間見える。(報道局)
パーソルキャリアが毎月公表している「doda転職求人倍率」(企業の求人数÷転職希望者数)によると、近年の倍率はコロナ下の20年7月の1.08倍を底に上昇を始め、同年末には1.54倍、21年12月には2.08倍に跳ね上がった。その後、再び1倍台に下がったものの、22年8月に再び2.09倍に上昇し、その後は2.1~2.2倍で推移したまま現在に至っている。
上昇要因は、求人数の増加に対して求職者数の伸びが鈍いため。ただ、業種・職種によって、倍率にかなりの開きが見られる。倍率の高い業種はコンサルティング、人材サービス、IT・通信の3業種が6倍以上とダントツに高い一方で、小売り・流通、レジャー・外食は1倍以下、メディカル、商社、金融などは1倍台と"二極化"しており、コロナ後はこの傾向が顕著になっているのだ。
これが職種別になると、さらに鮮明になる。例えば、エンジニア(IT・通信)は10倍台、専門職(コンサル・金融)は7倍台と超人気の一方で、事務・アシスタントは0.3倍台、販売・サービスも0.5倍台、専門職(メディカル)も0.8倍台と1倍を割り込んでいる。同社によると、エンジニア(IT・通信)や専門職(コンサル・金融)の需要増はDX推進やクラウド化、事業戦略の再構築といった企業ニーズの急増を反映したものだが、事務系などには企業側の求人需要は少なく、転職希望者とのギャップは大きいままだ。
こうした"二極化"は賃金面にも表れている。リクルートが定期公表している「転職時の賃金変動状況」によると、最新の今年1~3月期に前職と比べて賃金が1割以上増えた転職者の割合は平均34.7%で、これが過去最高だったという。賃金の比較方法で、前職には残業代などが含まれ、新職には含まれていないことから、「1割以上増」というのは事実上、前職の賃金水準と同じかどうかという判断基準になる。
ここにも職種による差がみられる。IT系エンジニアが40.3%なのに比べ、営業職は34.4%、事務系専門職も33.2%とかなりの開きがある。この1~3月期では接客・販売・店長・コールセンターが43.1%で最も高かったが、これは"コロナ明け"に伴うサービス業全体の復活が背景にあるとみられ、比率も他業種に比べると振れ幅が大きく、短期需要が多いことを示唆している。
この転職による賃金の変動を長期的にみると、2000年代は20%に過ぎなかったが、リーマン・ショック後は人手不足などでほぼ上昇トレンドをたどり、コロナ前の19年ごろには30%に達した。コロナで一時的に落ち込んだものの、その後は再び30%台で上昇を続け、現在に至っている。
転職で「賃金上がった」はわずか4割弱
しかし、これを逆にみると、転職後の賃金が前職より上がらない、あるいは下がった人が6割以上いる、ということになる。これは、ITエンジニアなどの超人気業種では転職後の賃金が大きく上がる一方、事務職など多くの業種の賃金は上がらない、あるいは下がっていることが容易に推定される。転職が賃金を含めて...
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