6月1日に企業の採用選考が解禁され、大学生らの就職活動が佳境を迎えている中で、リクルートやマイナビといった就活支援企業による「さくら」行為が明らかになり、学生らの不信を買っている。その背景には就活支援市場が寡占状態にあり、不公正な行為が見過ごされがちな業界体質も一因となっているようだ。(報道局)
今回の「さくら」問題は、リクルートやマイナビが開いた就活生向けのオンラインセミナーで、社員が学生になりすましてチャット機能を使い、講演者に質問したもの。リクルートの場合、2021年4月から22年10月に開いたオンラインセミナー約7000件のうち、「さくら」行為が少なくとも20件確認されたという。
内容は「イベントに私服で参加してもいいですか?」「インターンシップには何社くらい参加すればいいでしょうか?」といった初歩的な質問がほとんど。同社は「リクナビ」のホームページの中に謝罪文を掲載し、「参加学生が質問しづらい雰囲気になりがちだったため、雰囲気作りのきっかけとして質問した」と理由を説明している。マイナビはまだ詳しい内容を公表していないが、リクルートとほぼ同じ内容とみられる。
リクルートの説明を待つまでもなく、就活セミナーにおける参加学生と講師らとの質疑応答は、それほど活発でないことが多い。しかし、せっかく開いたセミナーである以上、活発なやり取りを期待するのが当然であり、そのための"呼び水"として質問したに過ぎず、質問もまっとうな内容。学生に紛れて質問したのは「誠実」ではないが、セミナーを盛り上げるためにやっただけ。その辺がリクルート側の本音であろう。
確かに、今回の「さくら」行為だけなら、それほど大きな問題ではないとも考えられる。とりわけ、新型コロナでリアルのセミナーなどができなくなり、オンラインが一般的になったこともあり、支援企業によるセミナーなどが企業にも学生にも大きな助けになったことは間違いない。しかし、就活生のためというよりも自社の都合を優先するビジネス論理が透けてみえる。
19年8月、リクルートキャリアが個別企業ごとに就活生の「内定辞退率」をひそかに計算し、トヨタ自動車などの顧客企業37社に無断販売していた事実が発覚。個人情報保護法に抵触するとして19年12月、政府の個人情報保護委員会などがリクルートや顧客企業に勧告・指導する事件があった。対象となった学生は2万6060人に及んだとしている。
マイナビも21年12月、入試難度が近い首都圏の私立大学群をまとめて指す「大東亜以下」という業界用語を、学生約1万5000人に誤送信したことが発覚。インターンシップの募集に関する内容だったことから、「企業が大学名だけで採否を決める"学歴フィルター"の類いではないか」と批判され、謝罪はしたものの、「学歴フィルター」については否定した。
出身大学による格差を意味する「学歴フィルター」の存在は、就活市場では広く知られているものの、明確な差別にあたることから企業の求人などで表ざたになることはない。その意味で、マイナビの誤送信は、企業側の本音を露呈したものと受け取られた。
企業にも学生にも「不可欠な」存在だが
今回の両社の「さくら」行為と"前科"をつなぎ合わせると、学生の「就活支援」という建前と、学生を「収益源」として見る本音とのギャップが浮かび上がる。就活市場は両社にディスコを加えた大手3社の実質的な寡占市場になっており、大規模な合同企業説明会を全国で開催するなど、企業側も学生側も3社の存在なくしてはマッチングもままならない体制ができ上がっている。
しかも、構造的な人手不足によって...
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