フリーランスの抱える実態・課題をつかんで多角的に議論する「フリーランスサミット2023」が、東京都千代田区の東京ガーデンテラス紀尾井町を会場(オンライン参加可能)に5月19日から4日間の日程で開かれた。フリーランスの各業界団体や夢の実現に挑む個人、労働組合員、有識者らで構成する実行委員会が主催する初の取り組みで、25の多彩なプログラムを展開。延べ70人の関係者が登壇して、フリーランスをめぐる歴史や最新動向、課題の解決策などを掘り下げた。同サミットの様子を振り返る。(報道局)
「フリーランスの夢実現ケーススタディ~各業界でプロを
めざす人たちへ」と銘打ったメインステージ(5月20日)
「Be Proud 仕事・新時代」をスローガンに掲げる同サミットは、4月に成立した「フリーランス新法」やインボイス制度導入など、フリーランスで働く人たちに大きな変化と動きがあることを重視。働き方が多様化する中で、フリーランスの課題に向き合い、産学官のさまざまな知見を集めてこれからのあり方を探るのが狙い。文化芸能芸術分野の専門性の高いフリーランス向けの企画や、広範な意味でのフリーランス、またフリーランス初心者向けの企画で構成。発注する側の企業も参画できる相互交流の場として運営した。アドバンスニュースなど協賛、厚生労働省など後援。
初日:俳優の西田敏行さんの開会メッセージでスタート
初日の19日は、俳優の西田敏行さんの開会メッセージ(録画)でスタート。「私たち役者の仕事は現場の多くの働く人に支えられている。フリーランスで働く人も含めてみんなBe Proud。誇りをもってすべての働く人が輝けるよう連帯してがんばりましょう」と述べ、初開催のイベントに花を添えた。続いて、「フリーランスと共に切り開く新産業論」をテーマにネットフリックスの公共政策担当ディレクター・杉原佳尭氏、大東文化大学社会学部の神部恭久准教授、映画監督で4Dブレイン社長の秋山貴彦氏が登壇。文化芸能芸術分野のエンジンであるフリーランスがいかに創造性を発揮しやすい環境をつくるかという視点で語り合った。
このほか、東京経済大学現代法学部の中里浩教授と連合ジェンダー平等・多様性推進局の菅村裕子局長による「初心者向けセミナー」も開かれ、フリーランスと雇用労働者の違いや歴史、法的な側面のポイントをやさしく解説。さまざまなケーススタディも紹介して、フリーランスとして働くうえでの留意点を伝えた。
2日目:挑戦するフリーランスが登壇、夢実現のケーススタディを紹介
2日目は多彩な9つのプログラムを展開した。このうち、「いまフリーランスが注目すべき国際基準」と題して、日本俳優連合の池水通洋代表理事と労働政策研究・研修機構の呉学殊統括研究員が登壇。芸術家の地位を明確に規定する法律が日本に存在しないことを踏まえ、ユネスコが1980年にこれらの点を明確にした「芸術家の地位に関する勧告」を加盟各国に行っている事実や、勧告が加盟国でどのように反映されてきたか、また関連する諸外国の事例も交えてひも解いた。そして、今後の日本で必要と思われるステップについて議論を深めた。
登壇者全員がフリーランスに込めたメッセージを綴り、
想いを語って発信した。右は連合の芳野会長(5月20日)
また、「フリーランスの夢実現ケーススタディ~各業界でプロをめざす人たちへ」と銘打ったステージも繰り広げられた=写真・上。フリーランスとして、誰もが歩むアマチュアからプロへの道。実際にプロになる夢の実現に向かって新しい挑戦をしているフリーランスの女性2人が登場して、奮闘ぶりや成果などを披露。そうした夢を支える仕組みを提供するスキマバイトマッチングサービスの小川嶺タイミー社長と連合の芳野友子会長らが、フリーランスのより良い環境づくりの観点からエールを送った=写真・中。
3日目:プラットフォームが果たす役割などをテーマに議論
3日目は10のプログラムを実施。このうち、「DXに強いフリーランスになろう」をテーマにしたミニシンポジウムには、日本外国特派員協会会員で労政ジャーナリストの大野博司氏やタイミーの石橋孝宜執行役員兼スポットワーク研究所所長、法政大学法学部の沼田雅之教授、労働政策研究・研修機構の呉統括研究員が登壇=写真・下。フリーランスにとって、アプリなどを活用したプラットフォームは重要な仲介機能を果たしていることを直視し、石橋氏は、高度にDX化された働くプラットフォームを構築している同社の事業内容を説明。労働条件の明示から報酬の立て替え入金に至る一連のビジネスモデルを解説し、「発注側とフリーランスの相互評価のできるシステムを目指す」と述べた。
「DXに強いフリーランスになろう」をテーマにしたミニシンポジウム。
右は労政ジャーナリストの大野氏(5月21日)
呉氏は韓国の芸術文化政策におけるプラットフォームの整備を紹介。多額の予算を投じて10分野66種類に及ぶ標準契約書のひな型整備にこぎつけた成果を披露。沼田氏はベルギーで創設されたフリーランスの労働者協同組合「Smart」について概要を解説し、フリーランスの社会保障の重要性を強調した。これらを受け、大野氏は日本におけるフリーランス保護制度の遅れについて、「日本は制度設計などで、最初は新しいことに拒否反応を示すことが多く、それがイノベーションの阻害の一要因になっている。民でできることと官の役割との協働がカギになるだろう」と締めくくった。
最終日:組織賞やプロジェクト賞など「Wor-Qリスペクトアワード」表彰
最終日は、「Wor-Qリスペクトアワード」の表彰式が行われた。フリーランスが対等に安心して働ける環境を構築している組織や、その実現に尽力した個人、そうした環境で制作された作品を表彰するアワードで、自薦他薦で応募された中から実行委員会が選んだ。組織賞はネットフリックスによる「リスペクト・トレーニングの導入と波及効果」で、会社が率先して労働環境の整備に取り組んでいることや波及効果への期待が評価された。
また、作品・商品・プロジェクト賞は鹿児島県奄美市の「フリーランスが最も働きやすい島化計画」が受賞。受け入れ側にフリーランスのコミュニティが形成され、住宅などの支援が手厚いことなどが支持された。特別賞は日本俳優連合の「芸能実演家が安心・安全に働ける環境づくりの取り組み」が選出された。特別賞は同サミット協賛のタイミー賞として選ばれ、これまで不安定な立場にあった芸能従事者が安心安全に働くことができるスキームを構築した点に、「『働く』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」を志す同社が親和性を感じたことが理由。表彰式のあとは、4日間にわたる全25のプログラムの登壇者が綴ったメッセージを振り返りながら、フリーランスを取り巻く環境整備と課題解決へのアクションを確認し合った。
今回の「フリーランスサミット2023」は全国大会として開催され、6~7月には全国8都市で「地域サミット」を実施。すべての働く人が輝き、誇りを持てる社会づくりに向けて引き続き展開していく。このうち、関東ブロックは6月10日(土)に開かれ、東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授が登壇する。