新年度を境に企業に対応が求められる労働法制が施行される。主な動きでは、月60時間超の時間外労働における割増賃金率を中小企業も一律「50%」に引き上げるほか、決済アプリを使った賃金デジタル払いの解禁、育児休業の取得状況に関する公表義務化などがある。いずれも企業人事、労務、法務などに直結する見直しばかりだ。4月1日から変わった雇用労働に関する新たなルールについて、その要所と留意点を整理する。(報道局)
昨年4月は、大企業で施行済だった「パワハラ防止法」(労働施策総合推進法)が中小企業にも適用されたほか、行動計画の策定・公表を義務付けた女性活躍推進法の対象企業が広がるなどの変化があった。コロナ禍の中で、企業に準備と知識が必要な改正となったが、大きなトラブルもなく1年かけて徐々に企業に浸透していった。本年度はそれ以上に企業負担が増える法改正が目立ち、監督官庁の厚生労働省や都道府県労働局などは企業の動きに目を光らせている。
<労働基準法>月60時間超の時間外労働、割増賃金率は一律「50%」
時間外労働とは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える分の労働を指す。このうち、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率については、既に大企業が2010年4月から50%となっている。中小企業は10年以上も適用が猶予され、当該部分について25%の割増賃金が認められていた。
4月1日以降は、中小企業も割増賃金率が50%に統一される。中小企業の一部には「25%が当たり前」といった認識が浸透しているだけに、対応を忘れると賃金関係の法律違反となるので注意が必要だ。
<労働基準法>給与デジタル払い解禁
労働基準法第24条の省令改正によって、「給与デジタル払い」が解禁された。これは、企業が労働者の希望に応じて、銀行口座を介さずに給与の全部または一部を決済アプリなどに振り込むことを可能にする仕組み。法律で給与は「通貨で直接、労働者に全額支払う」と定められているが、例外として認めている「銀行」とは別に「資金移動業者」を加えた。
「資金移動業者」とは、「PayPay(ペイペイ)」などのキャッシュレス決済アプリを運営する事業者で、厚労相が安全性などの基準を設けて指定する。参画を希望する事業者の申請と安全性などの審査が施行後となるため、実際の運用は夏以降となる見通しだ。
資金移動業者に課せられた主な運用ルールとしては、
(1)賃金支払に係る口座残高の上限額を100万円以下に設定。100万円を超えた場合は速やかに100万円以下にするための措置を講じる
(2)破綻などにより口座残高の受け取りが困難となったとき、労働者に口座残高の全額を速やかに弁済する
(3)最後に口座残高が変動した日から、少なくとも10年間は労働者が当該口座を利用できる措置を講じる
――など8項目がある。
導入後のメリットとしては、
(1)働き手の給与の受け取り方が多様化し、選択肢・自由度が増す
(2)外国人や非正規労働者なども金融サービスの恩恵を享受
(3)金融機関の支店・ATMの配置見直しが進む中、利用者の利便を補完
――などが挙げられる。
<育児・介護休業法>育児休業の取得状況を企業に公表義務付け
改正育児・介護休業法により、育児休業の取得状況の公表について義務付けられる企業の範囲が拡大された。これまでは、厚生労働大臣によって「プラチナくるみん認定」を受けている企業だけが対象だったが、従業員1000人超の企業すべてに拡大された。
改正育児・介護休業法は昨年4月から段階的に施行されており、このうち公表義務化は「仕上げの作業」となる。振り返りを含めて整理すると、
(1)企業による環境整備・個別の周知義務付け(2022年4月~)
(2)有期雇用の取得要件緩和(2022年4月~)
(3)男性版産休の制度導入(2022年10月~)
(4)育児休業の分割取得(2022年10月~)
(5)育児休業の取得状況の公表義務付け(2023年4月~)
(1)は、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備。現行の育児休業制度と改正で新たに加わる制度の活用を促進するため、雇用環境の整備を義務付ける。(2)は、...
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