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2023年3月27日

「満額回答」に沸く今春闘だが

実質賃金のプラス転換はいつ?

 2023年春闘は、多くの事前予想を上回る大企業の満額回答が相次ぎ、賃上げ交渉現場は久しぶりに活気を取り戻している。すでに第2ラウンドとも言うべき中小企業の交渉が次の焦点になっている。しかし、この賃金アップが今年だけの現象なら、「低賃金国」からの脱却はむずかしいのが実情だ。(報道局)

sc230325_2.png 連合主催の集中回答日の15日を中心にまとめた第1回集計(17日時点)では、805労組の加重平均賃上げ額は1万1844円(前年比3.80%増)となり、比較可能な13年以降で金額、賃上げ率とも最高となった。さらに、1290労組をまとめた第2回集計(23日時点)でも1万1554円(同3.76%増)となり、第1回より少し下がったものの、まだ最高を維持している=グラフ

 また、注目されている労組員300人未満の中小企業でも、706労組で8763円(同3.39%増)と13年以降の最高となっている。賃上げの波は正社員だけでなく、パートなどの非正規社員にも波及しており、流通などの加盟労組が多いUAゼンセンによると、23日時点のパートの賃上げ額は時給換算で61.2円、賃上げ率は5.84%となり、12年のUAゼンセン発足以来の最高となっている。

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相次ぐ賃上げの回答に手応えを強調する連合の
芳野友子会長(右から2番目・17日東京都内)

 中小企業、非正規労働者の賃上げが今後の焦点になることは、連合もかなり強く意識しており、芳野友子会長も17日の記者会見で「ここから中小の交渉が本格化をしていくので、気を抜くことなく中小の取り組みに対してはサポートをしていきたい。今の情報を幅広く知らせ、この流れを止めないようにしていきたい」と強調していた=写真

 今年の春闘は集中回答日以前から大手企業の「満額回答」などが相次ぎ、近年にない活気にあふれているように見える。しかし、その最大の要因は昨年来の物価上昇であり、再び顕著になっている人手不足に対する経営側の危機感もにじみ出ている。

 総務省の消費者物価指数をみると、ロシアのウクライナ侵攻などで国際的なエネルギー価格が急上昇した昨年4月ごろから、生鮮食品を除く総合指数の伸び率もそれまでの0%台から2%台に急上昇したまま推移し、昨年12月に4.0%、今年1月に4.2%と4%台まで乗せた。2月は政府の光熱水費抑制策の効果が出始めて3.1%に下がった。しかし、食料品価格は7.8%も上昇しており、抑制策がなければ4%台で推移していたことは間違いない。帝国データバンクによると、大手食品メーカーだけでも4月は5000品目近い値上げが予定されており、消費者物価が当面は上昇基調をたどることは間違いない。

 物価上昇による賃金への影響は鮮明だ。厚生労働省の毎月勤労統計調査では、月々の現金給与総額は名目賃金こそ22年1月から現在までプラスが続いているが、物価上昇分を差し引いた実質賃金になると4月から今年1月(速報値)まで10カ月連続のマイナスで、1月はマイナス幅も4.1%という大きな落ち込みとなった。給与所得者の生活水準は1年近く下がったままであり、これでは景気を支える個人消費は増えない。

 政府が早くから「物価上昇を上回る賃上げ」を叫び、企業の労使とも「大幅賃上げ」で姿勢が一致したのもこうした背景があり、いわば今春闘の大幅賃上げはこの1年間の給与の"後払い"という性格を強く持っている。今年の賃上げが最終的に3%台を維持できたとしても、今後の物価上昇率次第では実質賃金が再びマイナスに戻る可能性もある。

急がれる「人への投資」

 実質賃金がプラス転換し、年間を通じてプラスを維持できるかどうかがカギになるが、...


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