今年の春闘は、大手企業の相次ぐ大幅賃上げ表明もあり、例年になく大きな盛り上がりをみせている。しかし、ここに至る経過をみれば、それほど前向きな動きとも言えない。わずかな生産性向上だけでは賃上げの"原資"が限られるうえ、労働組合の影響力低下などもあって賃金格差が拡大する懸念も強いためだ。(報道局)
岸田政権は早くから「物価上昇を上回る賃上げ」を呼びかけ、これに応える形で経団連や連合も「継続した賃上げ」を目標に、これまでにない労使協調路線を取っている。連合はこれまで続けてきた4%の賃上げ目標を、今年は5%に引き上げた。
賃上げ余力のある大手企業では大幅な賃上げ表明が相次いでいる。中でも「ユニクロ」のファーストリテイリングが国内正社員の給与を平均15%、最大40%引き上げることを決めたことは大きな反響を呼んだ。また、イオングループもパート社員の時給を平均7%引き上げる方針とされる。イオンの場合、対象者は約40万人と国内最大規模だ。ユニクロも昨秋から非正規の賃金を1~3割上げており、両社は賃上げの旗を振る「ファースト・ペンギン」の役割を果たす結果となった。
大幅賃上げの流れが加速している最大の理由は、昨年来の物価上昇による実質賃金の目減りだ。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、原油を中心に世界的な物価上昇が起き、日本の場合は円安による輸入物価の上昇も加わった。消費者物価指数(気候変動要因の多い生鮮食品を除く)は昨年4月からそれまでの0%台から2%台に上昇。さらに上昇幅は月を追うごとに広がり、12月には4.0%まで上がった。昨年の年間指数も2.3%増となり、長年にわたって0%を上下してきたデフレ状態から様変わりしている。
この急激な物価上昇を反映して、厚生労働省の毎月勤労統計では労働者の実質賃金(名目賃金から物価上昇を引いた指数)が昨年4月からマイナスに転じ、11月のマイナス2.5%まで8カ月連続のマイナス。昨年の平均賃上げ率1.9%(厚労省調べ)を大きく上回っており、生活水準は低下している。これまで賃上げを渋ってきた経営者層も、対応に向けて重い腰を上げざるを得なくなった。
もう一つの要因は、"コロナ禍明け"に伴う経済回復で生じている人手不足の深刻化。12月の有効求人倍率は1.35倍で、1月からの上昇基調が続いている。12月の完全失業率も2.5%で3月以降は2.5~2.6%で推移している。労働力の需給バランスは実質的に"コロナ前"まで回復したと言ってよいが、産業や業種によって需給内容にはかなりの差がある。
とりわけ、コロナで大量の従業員を失った宿泊・飲食サービス業界や、DX人材など高度エンジニアが足りないIT業界などの人材不足は顕著で、正規、非正規とも大幅な売り手市場になり、すでに賃金もかなり上昇している。求人増に対して求職者数は減少していることから、一部業種によっては人材の奪い合いが激化している。ユニクロやイオンの大幅賃上げも人材獲得・維持を狙ったものというのが実情だ。
中小企業の3割が「賃上げは無理」
こうした状況下での春闘とあって、今年は全体の賃金も大幅上昇が期待されるものの、実現はかなり厳しい。生産性の向上が追い付かないうえ、企業格差の拡大や労組の衰退も壁になっているためだ。
大同生命が昨年暮れに調査した中小企業経営者アンケート(対象8175社)によると、...
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