2023年の日本経済は回復軌道を維持しそうだ。内閣府が発表した政府経済見通しでは、23年度の国内総生産(GDP)の伸び率を名目2.1%、実質1.5%とした。22年度見込みの各1.8%、1.7%に比べ、実質伸び率は下がるものの、規模は558兆円の過去最高となり、政府の総合経済対策が奏功すると予想した数字だ=表。同時に、雇用環境は厳しさが増すと予想され、成長の足を引っ張ることも懸念される。(本間俊典=経済ジャーナリスト)
政府見通し(実質ベース)の概要は民間消費が2.2%、設備投資が5.0%伸びる。来年度はウィズ・コロナによる行動制限の緩和が本格化し、外国人のインバウンド需要を含む内外の個人消費が活発になり、企業もコロナ期間中に控えていた設備投資を本格化させるため。前提となる消費者物価(CPI)は1.7%、完全失業率は2.4%とみている。CPIは22年度見込みの3.0%に比べ、来年度も物価の高止まり状態は変わらないものの、今年ほどの価格上昇はなく、伸び率自体は下がるとみている。
政府見通しに対して、民間シンクタンクなどの予想は総じて低い。「週刊エコノミスト」が実施した「23年金融機関29社予測」(12月20日号)によると、実質GDPの最高は2.2%、最低は0.1%で、平均すると1.3%程度だ。名目の平均は2.4%で政府見通しをやや上回っているものの、CPIを政府より高い1.9%とみているため。ただ、基調として官民の予想の差はそれほどなく、日本経済のデフレ脱却の「足掛かり」が見えてきたというレベルにとどまっている。
実は、国際通貨基金(IMF)が10月に発表した「世界経済見通し」では、先進国・地域の実質GDPは平均1.1%に過ぎず、その中で日本はG7の中で1.6%と最も高い。日本以外のG7はウィズ・コロナの解禁が早く、経済回復も進んだものの、今年になってロシアによるウクライナ侵攻をきっかけにしたエネルギー・食料価格の高騰が直撃。その影響は日本以上に大きく、米国は1.0%、ユーロ圏は0.5%の低成長で、ドイツ、イタリアに至ってはマイナス成長が見込まれている。"出遅れて"いた日本は先行ランナーたちが"コケた"ために追い付き、追い越すという予想だ。
こうした見通しを踏まえ、来年度に最も注目されるのは労働賃金の行方だ。バブル崩壊後のデフレ長期化により、日本経済は長年にわたって物価と賃金がほとんど上がらない低成長が続く「ゆでガエル」状態になっていた。しかも、肝心な伸びが鈍く、厚生労働省の毎月勤労統計調査をみると、物価上昇分を差し引いた実質賃金は14年以降、ほぼマイナスの年が続いている。各種の試算をみても、企業の労働分配率(利益に占める賃金の比率)は緩やかな低下が続いていることは確かで、デフレの影響が賃金に及んでいることが鮮明になっている。
22年2月から始まったロシアのウクライナ侵攻でエネルギー・食料品価格が急激にハネ上がり、欧米ほどではないものの、日本も4月から物価上昇が顕著になっている。CPI(生鮮食品を除く)はそれまでの0%台から4月には2%台、9月には3%台に乗せ、11月は3.7%まで上昇した。これに対して賃金の上昇は鈍く、毎月勤労統計でも名目ではプラスを続けているが、実質では4月から7カ月連続のマイナスだ。これでは個人消費が活性化するはずもない。
"大幅"賃上げ要求相次ぐが、決断できない?企業
このため、現在は官民挙げて「賃金アップ」の大合唱となり、これが来年の春闘まで続くとみて、連合は賃上げ目標を従来の4%から1%上乗せして5%要求を掲げた。ただ、賃上げ交渉は個別企業ごとに行われ、...
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