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2022年8月 8日

2年連続の大幅アップというが…

最低賃金、デフレ脱却に効果出る?

 政府の中央最低賃金審議会(藤村博之会長)が8月1日、2022年度の最低賃金(最賃、時給ベース)の引き上げを過去最大の3.3%増、31円を目安として示した。全国平均では前年の930円から961円に引き上げられることになり、これを目安に現在、各都道府県の審議会で引き上げ額が続々と決まっている。しかし、この引き上げも日本経済に染み付いたデフレ経済からの脱却にどこまで寄与するか、事態は不透明だ。(報道局)

sc220808.png 最賃は物価水準や給与水準などによって、47都道府県をA、B、C、Dの4地域に分け、目安額も少し異なる。今年は、最も水準の高いA地域の東京都など6都府県は31円で、B地域の京都府など11府県も31円、C地域の北海道など14道県が30円、D地域の青森県など16県が30円を目安にした=表

 21年度の最賃は、最も高いのが東京都の1041円と神奈川県の1040円で、最も低いのが沖縄県と高知県の820円。仮に目安通りに引き上げられると、992円の大阪府が1023円となり、3番目の「1000円都府県」になる。しかし、東京都が1072円になるのに対して、沖縄・高知両県は850円となり、最高と最低の開きは222円とほとんど変わらず、最賃議論の主要課題の一つだった「地域格差の縮小」は持ち越された形だ。

 政府はかねてより最賃の引き上げに積極的で、2012年の最賃749円(前年度比1.63%増)から、第2次安倍政権が発足後の13~15年度は15~18円(同2.00~2.31%増)、16~19年度はさらに25~27円(同3.13~3.09%増)と引き上げ額のギアを上げてきた。

 17年度には「働き方改革実行計画」の一環として、「年率3%程度をメドとして、全国平均1000円の早期実現」を決定している。20年度は新型コロナウイルスの感染拡大で事実上据え置いたが、21年度は28円(同3.10%増)と再び3%台に伸ばし、22度もこの流れを維持した。

 政府がここまで最賃の"大幅"引き上げにこだわった理由は、アベノミクスの「三本の矢」の一つである「民間投資を喚起する成長戦略」にとって、賃金の増加が不可欠なため。アベノミクスの最大の課題だったデフレ脱却には「賃金上昇→消費活性化→企業利益の増加→賃金上昇」の好循環を実現しなければならず、政府は最賃の大幅引き上げに加え、春闘では「3%程度の賃上げ」を労使に要請する「官製春闘」で介入した。 

 しかし、コロナ禍もあって、成長戦略は軌道に乗らないまま、アベノミクスは終えん。この間、賃金はまったくと言っていいほど上がらなかった。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、賃金指数(20年=100)は名目では13年度の98.5を底に毎年上がり続けたものの、上昇幅は0.2~0.9%程度。物価上昇分を差し引いた実質になると10年度の107.0からほぼ一貫して下がり続け、21年度は100.6に。この10年間のうち、プラスとなったのはわずか3年で、7年はマイナスだった。

 この間、完全失業率は10年の5.1%から一貫して改善に向かい、コロナ前の19年には2.4%という事実上の完全雇用を実現した。失業率と賃金上昇率はほぼトレードオフの関係にあり、アベノミクスによって就労者は増えたものの、その中心は賃金水準の低い非正規の高齢者や女性であり、それが全体の賃金水準を引き下げたと考えられる。その意味で、アベノミクスは「雇用=〇、賃金=×」だったと言えよう。

 政府が春闘に介入し、最賃の大幅引き上げに踏み切ってもなお賃金が上昇しなかったのは、日本企業のバブル崩壊以降の"デフレ経営"が浸透し、人件費などのコスト削減に注力するだけで、生産性を本気で上げようとしなかったことが最大の要因だった。最賃を毎年引き上げてきたにもかかわらず、それが賃金全体の底上げにはつながらず、最賃周辺の賃金レベルの就労者を増やす結果となってしまった側面は否定できない。

 今年の大幅引き上げは、原油価格の高騰などによる輸入物価上昇に伴う消費者物価の急上昇に対して、労働者側が「生活防衛」のために大幅引き上げを求めたことが奏功したもの。しかし、飲食・サービスなどに多い"最賃周辺産業"にとっては、過去2年のコロナ禍に加え、人件費コストの上昇が2年連続で加わることから、厳しい経営を余儀なくされることは間違いない。

「ゾンビ企業」が1割の16.5万社も

 このため、日本商工会議所などは中小・零細企業に対する公的支援の強化を要請しているが、ある程度の企業破綻は免れない可能性が高まっている。帝国データバンクは7月、利払い負担を事業利益で賄えない、いわゆる「ゾンビ企業」が20年度で全企業の1割にあたる16.5万社に上るという推計結果を発表した。

 建設、製造の両産業で過半数を占め、...


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