日本経済はスタグフレーション(景気低迷期の物価上昇)の入り口に差し掛かっているのか――。世界的なインフレのあおりで日本も物価上昇が始まる一方、賃金がそれに見合って上がるかどうか不透明で、家計は生活防衛の姿勢を強めているためだ。加えて、今回は円安の加速が景気のマイナス要因になっている側面が強く、企業も家計も当面は"我慢の季節"を強いられることになりそうだ。(本間俊典=経済ジャーナリスト)
4月の消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)は前年同月比で2.1%上昇した。これまでは20、21年と2年連続で0.2%の物価下落が続き、21年後半から上昇に転じたものの、毎月1%にも届かない低水準で推移していた。しかし、4月になって2%台にハネ上がり、東京都区部の5月中旬も1.9%上昇となっている。ただ、8%台の物価上昇に見舞われ、インフレ封じに追われている欧米諸国に比べれば、日本の上昇が緩やかなことは確かだ。
一方、企業間の取引を示す国内の企業物価指数は昨年からジワジワ上昇しており、後半には8%台、今年になると9%台で推移している。その割にCPIの伸びが小さいのは、多くの企業がコスト増を製品・サービス価格に十分転嫁していないためだ。東京商工リサーチによると、6月時点でもコスト上昇分を「価格に転嫁できない」企業がソフトウエアなどのサービス業を中心に6割を超えている。
日常品が値上げラッシュ
しかし、食品などのメーカーは輸入原材料の高騰などに耐え切れず、製品価格の値上げラッシュとなっている。帝国データバンクによると、主要な食品105社の値上げ済み・年内値上げ予定は1万品目を超え、値上げ幅は平均13%に上る。家計に直結する食品などの値上げは、消費者心理を冷え込ませるに十分だ。
これに対して、賃金の上昇は十分とは言えない。連合の集計では5月末時点の春闘賃上げ額(加重平均)は6049円で前年比2.09%増。20年の1.90%、21年の1.79%に比べ、ようやく2%台に乗せる"成果"を挙げてはいるが、この水準はCPIの上昇率とほぼ同じであり、実質賃金がプラスになるかどうか微妙なところだ。
日本の賃金は近年、低迷が続いている。厚生労働省の毎月勤労統計調査による現金給与額の伸びは2014年度以降、20年度のマイナスを除くと7年間はプラスだったものの、どの年も上昇幅は0.2~0.9%の超低空飛行。物価上昇を差し引いた実質賃金になると16、18、21年度以外はマイナスだった。
「リベンジ消費」とインバウンド需要の復活がカギ
物価と賃金のいずれも伸びが極めて鈍く、賃金上昇→消費活性化→物価上昇→賃金上昇のサイクルを描く「成長の好循環」とはほど遠いデフレ状況が続いてきた。これにはさまざまな要因が絡んでいるが...
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