国内の物価が上昇している。新型コロナウイルスの感染拡大はヤマを越えたとみられるが、昨年から続いている原油高が幅広い物価上昇を招いている。そこへ、ウクライナ侵攻を進めるロシアに対する経済制裁によって、エネルギー価格が一段と上昇しているためだ。新型コロナもウクライナ危機も、それだけをみれば一過的要因だが、日本経済の"円安歓迎"体質が物価上昇の背景にあることも見逃せない。(本間俊典=経済ジャーナリスト)
日銀が毎月公表している企業物価指数(企業間のモノの取引価格を表す指数)が急上昇している。昨年3月に前年同月比1.2%増とプラスになって以来、月を追うごとにプラス幅が拡大し、11月には同9.2%増、今年2月には同9.3%増(速報)となった。第2次石油ショック当時の1980年12月に記録した同10.4%増に次ぐ高水準だ。
品目をみると、ガソリンを含む石油・石炭製品、鉄鋼、電力・都市ガス、水道などインフラに関連する幅広い分野が20~30%上昇しており、値上がり品目は全体の7割近くに及んでいる。輸出入別(円ベース)でみると、輸出指数が同11~15%程度の上昇なのに対して、輸入指数は同20~40%と上昇幅がはるかに大きい。
ガソリン価格が急騰
最大の要因は原油価格の急騰。新型コロナの影響で世界景気が停滞し、20年春ごろから原油価格は急落して産油国が大幅減産に踏み切ったが、その後も景気回復の足取りは鈍く、原油の減産が続いた結果、在庫がひっ迫して価格上昇に転じたことが背景にある。それまでの1バレル=80ドル台が、直近の3月には130ドル台まで上昇した。これにロシアによるウクライナ侵攻が加わり、投機資金の動きも活発になって原油高に拍車が掛かっている。
企業物価が上昇しても、上昇コストは企業努力などで抑えられるため、消費者物価までは必ずしも連動しないことが多いが、今回のように原油高が長期化すると、コスト吸収は限界に達し、年明けから消費者物価の上昇も始まっている。その代表がガソリン価格だ。エネルギー情報センターの統計によると、コロナ禍2年目の21年前半ころまでレギュラーガソリンの小売価格は1リットル=130~140円で推移していたが、後半から月を追うごとに上昇し続け、今年3月には174円まで上昇している。
政府は価格急騰を抑えるため、この1月から石油元売り企業に対して補助金を支出しているものの、価格の急騰に伴って補助額も上昇しており、このままの上昇ペースが続けば、補助金上限の1リットルあたり25円に達するのも時間の問題というのが実情だ。マイカー所有者はもちろん、ガソリンを大量に使う運送業者や宅配業者など、影響は広範囲に及んでいる。
日本政府は対ロ制裁として、国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア排除などに加わったが、元々、日ロ間の貿易規模はそれほど大きくない。20年で対ロ輸出は58億ドル、対ロ輸入は107億ドルで、シェアも輸出は0.9%、輸入は1.7%程度。輸入の主力は原油や天然ガスだが、日本の原油調達は中東依存が高く、ロシア産は5%もない。その意味では、ロシア産の依存度が高い欧州各国が受ける影響とは比較にならない。日本の場合は、ロシアを原因とする原油高が世界市場に広がり、その余波を受けるという形で影響を受けている。
しかし、今後は企業物価の高騰を反映した消費者物価の上昇は避けられないだろう。日本の消費者物価(生鮮食品を除く)は携帯電話料金の大幅値下げなどで昨年前半まではマイナスが続いていたが、...
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