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2022年2月16日

「スポットワーク協会」の理事長に就任する米田光宏氏に聞く(下)

「積極的にマーケットの可視化を」、政府機関に情報提供も

――求人メディアの「届け出制」施行を控え、どのような活動を。

sc220216.jpg米田 求人情報は軽く取り扱ってはいけません。複数の法律の中で運用されるべきです。ひいてはそれが働く人の就労保全につながります。そうした知識の装着、必要性の啓発を展開していき、その流れで今秋にも施行される「届け出制」に移れます。必要性の有無が分からないまま「届け出制」と言われてしまうと、中には潜(もぐ)ってしまう事業者がでる可能性もあります。潜ってしまったら事業者にも、業界にも良いことはありません。

 多くの事業者は、各種法律に則った形での求人情報の提供方法で、働く人と雇用主を広告モデルとしてマッチングさせていますが、特にスポットワークにおける情報提供は多様で、ビジネスモデルとして職業紹介の形をとる場合もあります。給与の何パーセント分かを手数料としていただく仕組みです。「届け出制」においては、「うちは職業紹介の枠組みなので届け出制はいらない」と言う事業者がいたとしても、働く人にすれば求人情報を提供されて事が動くわけですから、外形上一緒です。

 募集情報等提供事業者とはどういうものなのか。そのためには何が必要なのか。しっかりと啓発していく中で土台をつくり、厚生労働省や公益法人・全国求人情報協会が先頭になって粘り強く進めてきた適正化に向けた「適合宣言」を手本に、スポットワークの募集情報等提供事業者である私たちも、そこに追いつけるよう協会として活動していきます。

――協会が調査研究で蓄積していくデータや統計などの活用法は。

米田 事業内容のひとつとして、マーケットの可視化には積極的に関与していきます。例えば、コロナ禍で「実質失業率」という言葉がクローズアップされました。定職がある、ないの定義で捉えている失業率に対し、月120時間働いていた人が業務を減らされて60時間になった場合。これは失業者としてカウントされませんが、収入は半分になっており、「0.5失業」です。そうした見方をしていくと、コロナ禍では実質的には相当な"見えない失業"があるでしょう。

 私たちはそうした人たちの動きを捉えています。あるいは、公的機関の数字の実態を補足する手がかり、現場がどう動いているかを募集情報等提供事業者としてつかんでいます。スポットワークの件数の増減や登録者数の増減に加え、ネット調査やインタビューを行うことで、実際の就労環境がどうであるか。こうした事態が起きた時にはこんな状態になるとか。定量的な数字を発信して、政府の労働政策であったり、企業の採用戦略などに活用してもらえるよう進めていきます。

業界をリードしてきた大手で土台をつくり、頼られる存在に

――立ち上げる協会の理事メンバーと特徴は。

米田 正しい自主規制を事業成長につなげてきた大手の経験値は大切だと考えています。今回、理事に参画してもらうのは4社です。「LINEスキマニ」を展開するLINEは、ゼロから1を生み、1を10にも100にも広げるイノベーションを実現してきた実績があります。「シェアフル」を有するパーソルは、人材業界の中で派遣・請負・紹介などの人材領域のマーケットをつくってきた担い手です。HRソリューションズは、シェアNo.1のATS(採用管理システム)「リクオプ」を有し、雇用周りの高度なDXノウハウとビッグデータを裏付けに、企業のみならず国や多くの地方自治体の雇用を創出しています。

 そして、スポットワークといえば、この分野でスタートが早かったツナググループ・ホールディングスの「ショットワークス」。広い意味で業界を牽引してきた特徴のある顔ぶれが集まって、まずは協会の骨組みと外郭をつくりたいと思います。また、発足に際し、正会員として「Wakrak」を提供するWakrak社など、まさに新たに業界参入した事業者にも加わってもらうことで、今後も協会のカバー範囲、趣旨に賛同する事業者が広がっていくものと考えています。イノベーションのマーケットなので、これから新規事業者が続々と誕生するでしょう。業界をリードしてきた各社があるべき姿を明確にし、これから参入する事業者に頼りにしてもらえるような存在になりたいです。

 また、労働政策審議会前会長の鎌田耕一先生にも参画いただきました。フリーランスの働き方や雇用類似のあり方に造詣が深く、「届け出制」においても主導的に知見を注いできた一人です。正しい成長、働く人の就労環境保全の視点を突き詰めるうえで多面的にご教示いただけると思っています。

賃金支払いのフローは「就労環境保全」の一環

――最後にひとつ。政府は昨年来、「賃金デジタル払い」を整備・推進すべく安全網の体制づくりを進めている。スポットワークが健全発展していく過程にはこうした動きに親和性を感じるが、どのように見ているか。

米田 大きなアジェンダと考えています。募集情報等提供事業といえば、かつてから多く存在し、多くの事業者は全国求人情報協会に加盟しています。では、既存の事業モデルとの違いはどこにあるのか。それは賃金支払い代行がサービスの一環として組み込まれているところです。スポットワークは当日払い、翌日払い、長くて週払い。そうした中で、賃金支払い代行という領域があって、スポットワークとはセットです。これから健全に市場成長する、あるいはスポットワーカーの就労環境保全という観点で言えば、安心して給料をもらえることと、税と社会保障がしっかり結びついていることが重要で、有益です。

 協会活動の一丁目一番地に「就労環境の保全」と「市場の健全成長」を掲げているだけに、そこと密接な賃金支払いのフローにある課題解決は避けて通れないと思います。現場実態や安全策などを含め、政府にも提言していきます。電子マネーが広く普及する中で、銀行口座を持たない人にも適切に給与を払うことができる形がなくて良いのか。正社員領域よりもスポットワークであるがゆえにクローズアップされるテーマだと思います。

(おわり)


一般社団法人 スポットワーク協会英文名はJapan Spot Work Association(JASWA)。2022年1月登記、同年2月17日に設立総会。スポットワーカーを取り巻く環境の調査・研究を行い、労働行政に協力して関係機関および会員相互の緊密な連絡協調をはかって、日本におけるスポットワークの健全な発展を目指す。事務所は千代田区。

米田 光宏氏(よねだ・みつひろ) 1969年、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。93年にリクルートフロムエー(現:リクルート)入社。マーケティングや商品開発、組織コンサルティングを担当し、主にアルバイト・パートの採用領域に従事。リクルート首都圏FMカンパニー企画室長などを経て、2007年にツナグ・ソリューションズを設立し、同社社長に就任。2017年6月、東京証券取引所マザーズ市場へ上場、翌年7月に1部に市場変更。19年4月、ツナググループ・ホールディングスに商号変更。現在、ツナググループHCなどグループ4社及び「多様な働き方」の調査研究機関「ツナグ働き方研究所」を率いるHD社長。

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