――スポットワークの雇用型と業務委託型、協会はどちらに軸足を置く。
米田 課題意識として強いのは雇用型です。本来保全されるべき就業環境や準備すべき受け入れ態勢といったところが、新しい働き方として未成熟です。まず、プラットフォーマーである私たち事業者は、利用者である働く人と雇用主に対して、短期・単発で働く人を雇用する際には必ず雇用契約を結ばなければいけないこと。働く人には、この働き方で年間20万円を超えて稼いだら確定申告をしなくてはいけないこと。例えばそうした基本的な法的ルールを発信していきます。
一方、ギグワークと呼ばれる業務委託型については、クラウドソーシングという経験とスキルを持つ人が明確な納品物を提供するスタイルも業務委託に入ります。一方で、例えばデリバリーという飲食店から目的地までフードを運ぶ仕事も業務委託型で行われているケースがあります。労働者性や労災などの観点から国内外で課題が指摘されているこの形も業務委託とくくられていて幅が広い。前者のクラウドソーシング以外の範囲に入るギグワークにおいては、職場保全にも協会活動を進める中で視野を広げていこうと考えています。
――短期・単発であるがゆえに起きている現場のトラブルとは。
米田 働く人の職場に対する誠実さに欠ける点が指摘されています。納品物や成果、結果によって報酬が生まれるのではなく、時間で報酬が発生するケースが多いため、トラブルを起こしたまま姿を消してしまったりする人もいます。こうした雇用側のリスクは、活用する人数が増えることで顕在化する傾向にあります。現在、そのリスクはプラットフォーマーではなく雇用者側が担っています。
一方、雇用契約に書かれていない業務を働く人が強いられたり、源泉徴収がないまま日払いなのでポンと現金を渡されたりするケースも。発足する協会では、この課題に対して当事者感覚で関与していきます。例えば、そうした雇用主の求人は掲載しないとか。働く人の方では、身分認証を必須にしたマッチングを導入していくかなど。問題のある人が登録できないようにプラットフォーム側の責任として逃げてはいけません。つなぐ就労者をしっかり確認し、職場も確認し、そのマッチングを事業者責任としてやっていく。
求人情報を提供する事業者に必要な要素と担保すべき品質を
――現場の課題や労働市場整備の観点から厚生労働省は、職業安定法上の募集情報等提供事業者(求人メディア・サイトなど)の対象範囲拡大や、「届け出制」の導入を盛り込んだ職安法の改正を進めている。
米田 ポジティブに捉えています。求人情報を提供する事業者が一定レベルの品質を維持し、働く人と雇用主に対する責任を持つということが法改正による「届け出制」の狙いだと認識しており、その方向性に共鳴しています。もちろん、大前提として「規制によってイノベーションを妨げない」ことを基軸に、健全な市場成長につなげる枠組みをつくっていきます。
そして、「届け出制」が導入・施行され、浸透するまでの期間が大切だと考えています。届け出制スタートの一歩手前のところを事業者協会がしっかりとカバーし、募集情報等提供事業の必要な要素や担保すべき品質をイノベーターたちに伝えていきます。
規制強化でもある「届け出制」と事業者自らの「自主規制」は矛盾しているとは思っていません。正しいイノベーションが成長を生む。雇用仲介サービスは、有料職業紹介であっても、募集情報等提供事業でも、求職者に信頼されて初めて成り立つビジネスです。適正な情報提供ができない事業者はイノベーションを起こしても淘汰されると確信しています。そして、適正で正しい自主規制は、正しいイノベーションにつながる。協会活動の柱のひとつに掲げて取り組みます。
(つづく)
【一般社団法人 スポットワーク協会】英文名はJapan Spot Work Association(JASWA)。2022年1月登記、同年2月17日に設立総会。スポットワーカーを取り巻く環境の調査・研究を行い、労働行政に協力して関係機関および会員相互の緊密な連絡協調をはかって、日本におけるスポットワークの健全な発展を目指す。事務所は千代田区。
米田 光宏氏(よねだ・みつひろ) 1969年、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。93年にリクルートフロムエー(現:リクルート)入社。マーケティングや商品開発、組織コンサルティングを担当し、主にアルバイト・パートの採用領域に従事。リクルート首都圏FMカンパニー企画室長などを経て、2007年にツナグ・ソリューションズを設立し、同社社長に就任。2017年6月、東京証券取引所マザーズ市場へ上場、翌年7月に1部に市場変更。19年4月、ツナググループ・ホールディングスに商号変更。現在、ツナググループHCなどグループ4社及び「多様な働き方」の調査研究機関「ツナグ働き方研究所」を率いるHD社長。