短時間・単発の自由で効率的な働き方が世界中で広がっている。日本国内でもニーズの拡大に伴い、働く人と雇用する企業を結ぶ「マッチングサービス プラットフォーマー」と呼ばれる事業者が増えている。インターネットのサイトや専用アプリなどを開発して雇用仲介サービスの一翼を担っているが、こうした「新形態サービス」事業者の中には、求人事業のルールや労働法規の知識に浅い新興メディアの参入も散見される。新たなイノベーションの台頭を歓迎する声がある一方、働く人と雇用する側双方の活用リスクや紹介・派遣事業との境界線といった労働市場整備の観点からも課題がある。
こうした中、課題に向き合って解決に取り組み、スポットワークの健全な市場成長を推進する「一般社団法人 スポットワーク協会」が、2月17日に誕生する。理事長(代表理事)に就任する米田光宏氏(ツナググループ・ホールディングス社長)に、設立の狙いと展望を聞いた。(聞き手=大野博司、撮影=山下裕之) ※(中)は2月15日(火)、(下)は2月16日(水)に掲載します。
――コロナ禍がスポットワークに与えた影響は。
米田 新型コロナウイルス感染防止に伴う人流抑制や営業自粛の中で、働き方や就労のあり方は大きく変化し、特にスポットワークが注目を集めています。スポットワークは、短い時間と期間だけ働き、継続した雇用関係のない働き方で、短期雇用契約を結ぶ「単発バイト」「スポットバイト」と、雇用契約を結ばない業務委託型の「ギグワーク」があります。いずれも、この数年で広がっている働き方のひとつです。
「新形態サービス」と呼ばれる雇用仲介サービスを利用するのが主流だけに、若い人たちのツールと思われがちですが、実はコロナ禍で積極的に活用しているのは若年層だけではありません。高齢者層も含め幅広い年齢層がスポットワークを働き方のひとつとしています。コロナ禍前の2019年、私たちの試算では約290万人がスポットワークで仕事をしています。現在の伸び率のままで推移すると、3年後の2025年には500万人を超えると試算しています。
正社員で働いている人が副業で、アルバイトをしている人が兼業で、またはスポットワークを専業としている人もいます。3つの属性のうち一番伸びているのが正社員層の副業としてのスポットワークです。コロナ禍の中で、残業時間が減った分を補う手段としていると推察されます。ポジティブに言えば、テレワーク導入などで通勤時間がなくなり、新たに生まれた時間をスポットワークにあてた人もいるでしょう。
働く側のリスク、雇用側の義務、税と社会保障の課題に向き合う
――雇用する側の期待値も感じるが、スポットワークには課題もある。
米田 労働人口が減少する中で、企業側には生産性向上という至上命題があります。こうしたスポットワークをモザイクのように組み合わせて就労環境や労働環境をつくり上げていき、事業成長に結び付けていく流れはまさにイノベーションであり、今後も活用が増えていくとみています。
一方で、課題もあります。まず、働く人のリスクです。業務委託型で言えば何らかの事故の時の保険、保障問題。また、直接雇用型でも一定時間以上働いた際の社会保障などについて、知識と理解がないまま働くことでのリスクがあります。雇用する側も、労働三法を含めて守るべきルールがあり、社会保障と密接につながる税金の問題もあります。
つまり、働く人と雇用する側の双方がリスクを負っています。さらには国も税と社会保障という問題において課題を抱えているといえるでしょう。ニーズが先行して3方向が課題を持つ中で、現状は雇用仲介サービスの、とりわけ「マッチングサービス プラットフォーマー」だけが何のリスクもとっていません。事業者自らが3方向のリスクに向き合い、社会的コストを共有するべきです。単に、プラットフォーム上でマッチングさせ、課題には知らぬふりではなく、働く人のリスク、雇用側の義務と課題、国の税と社会保障の観点から事業者として主体的に参画し、健全な市場成長を目指して広く発信していこうという思いで協会を立ち上げました。
(つづく)
【一般社団法人 スポットワーク協会】英文名はJapan Spot Work Association(JASWA)。2022年1月登記、同年2月17日に設立総会。スポットワーカーを取り巻く環境の調査・研究を行い、労働行政に協力して関係機関および会員相互の緊密な連絡協調をはかって、日本におけるスポットワークの健全な発展を目指す。事務所は千代田区。
米田 光宏氏(よねだ・みつひろ) 1969年、大阪府出身。関西学院大学経済学部卒。93年にリクルートフロムエー(現:リクルート)入社。マーケティングや商品開発、組織コンサルティングを担当し、主にアルバイト・パートの採用領域に従事。リクルート首都圏FMカンパニー企画室長などを経て、2007年にツナグ・ソリューションズを設立し、同社社長に就任。2017年6月、東京証券取引所マザーズ市場へ上場、翌年7月に1部に市場変更。19年4月、ツナググループ・ホールディングスに商号変更。現在、ツナググループHCなどグループ4社及び「多様な働き方」の調査研究機関「ツナグ働き方研究所」を率いるHD社長。