19日に公示される衆院選に向けて、各政党の公約が出そろった。新型コロナに苦しむ国民に向けて各党とも救済策を前面に掲げており、とりわけ自民党以外は軒並み給付金や減税をアピールしている。この大盤振る舞い、さまざまな問題を抱えており、中身の議論が十分ないまま選挙戦に突入する。(本間俊典=経済ジャーナリスト)
経済政策に限ってみると、9年に及んだ安倍・菅政権の間に格差が拡大したとして、自民党は「成長と分配の好循環」「分厚い中間層の再構築」をうたい、立憲民主党は「分配なくして成長なし」「1億総中流の復活」をぶち上げるなど、驚くほど似たようなスローガンとなった。実は、格差拡大が本当かどうかは議論の分かれるところだが、ここでは深入りしない。
具体的な政策として、公明党がまず「0~18歳まで1人10万円」の「未来応援給付」と称するバラマキ策を掲げた。これに刺激された野党も次々と「給付金」を公約に掲げたうえ、消費税を現在の10%から5%に半減するなどの大盤振る舞い合戦に出た。これらが「分配」の具体策というわけだが、結果的にどの党も独自性を発揮できない皮肉な結果となっている。
問題となる財源については、立民は金融所得課税の強化や法人税の累進税率の導入などで賄えるとしている。要するに富裕層や大企業など、余裕のあるところから税金を増やそうというわけで、共産も基本的に同じ内容だ。国民民主は「教育国債」の発行や富裕層課税、社民は企業の内部留保への課税、維新はベーシックインカム(最低所得保障)を導入し、各種規制改革などで財源をひねり出そうという。
どれも、一見する限りもっともな政策だが、実現には大変な困難が伴う。公明案の一律10万円の対象者を約1950万人(19年10月時点、総務省)とすると、総額は2兆円近くになる。同党は「通常の予算の範囲で賄える」としているが、総額13兆円に上った昨年の1人10万円の「定額給付金」は、実際に使われたのはわずか3~4割程度と推定されている。バラマキの効果のなかったことは明らかだが、わずか1年前の反省も持っていないようだ。
野党案はさらに問題が多い。21年度の税収の上位3は消費税が20兆3000億円、所得税が18兆7000億円、法人税が9兆円(予算ベース、財務省)であり、消費税が最も多いが、単純計算でこれを5%に下げると10兆円の税収不足が生じる。これを富裕層や企業への課税強化で賄うとしているが、では「富裕層」をどう定義するのか、法人税率をどこまで上げるのかといった肝心な"線引き"は明らかにしていない。
また、富裕層や法人課税の強化が株価下落に結び付くであろうことは、岸田首相が「金融所得課税の強化」を口走ったとたんに株価が下がり、あわてて口をつぐんだことからも明らかだ。企業の内部留保への課税には「二重課税」問題という議論が必至。仮に今回、政権交代が実現したとして、野党側はこうした実態や構造問題に正面から向き合う覚悟はできているのだろうか。
"数値目標"避けた自民
これに対して、自民党は「非正規、女性、子育て、学生らコロナ禍で困っている人々への支援」「労働分配率向上に向け、賃上げに積極的な企業への税制支援」などの表現を使いながら、野党のような"数値目標"は示していない。政府・与党で進めている現在の政策を大きく変えることはできないうえ、昨年の定額給付金の"失敗"に懲りたためとみられる。
しかし、同じ与党の公明が「18歳まで10万円」を打ち出し、「首相も前向き」という形をみせることで、バラマキ策でも野党に対抗できるというズルさが浮かび上がる。岸田首相は選挙後に...
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