新型コロナウイルスの感染拡大で苦境にあえぐ企業。その雇用を守る切り札となっていた雇用調整助成金(雇調金)が、窮地に立たされている。感染の長期化によって給付の財源である雇用保険の積立金が底をついたためだ。感染の第5波を受けて、政府は給付期間を9月末から11月末に延長する一方、財源確保に向け労働政策審議会で議論を始めた。(報道局)
雇用保険は、失業者向け給付と職業訓練などの雇用安定・能力開発の二つが主要事業で、保険料は前者が企業と労働者の折半、後者は企業だけが負担している。雇調金は後者の事業に当たる。コロナ前の2019年度末には前者で約4兆5000億円、後者で約1兆5000億円の積立金があった。
政府は昨年4月、感染の第1波と同時に雇調金の給付条件を緩和する特例措置を講じ、企業への助成率を上げたり、雇用保険の被保険者でない労働者も対象にするなどした。当初は3カ月間の時限措置だったが、感染の長期化に伴い、適用期間の延長を繰り返すと同時に、助成内容も大幅に拡充。労働者1日あたり助成額の上限を8265円から1万5000円に大幅に引き上げ、さらには企業から休業手当をもらえない労働者に直接給付する休業支援金制度も設けるなど、雇用維持に向けた"大盤振る舞い"に出た。
これらは09年のリーマン・ショック当時、メーカーを中心に労働者の解雇が続出し、失業率が3%台から5%近くまで上昇するなど、雇用不安が社会問題となったことが教訓となっている。今回、政府は失業阻止に先手を打ち続けたが、その最有力策が雇調金だった。
この結果、完全失業率は20年前半の2%台から後半は3%台に上がったものの、今年に入ると2%台後半に下がり、何とかこの水準で推移している。「失業予備軍」の休業者数も、昨年4月には一時597万人に膨れ上がったが、その後は徐々に減少して今は200万人前後で推移している。政府が自画自賛するように、雇調金政策などが奏功したことは確かだ。
最大の誤算は、感染の長期化と感染者数の拡大。メーカーなどは海外景気の持ち直しなどで業績回復を果たしている一方で、航空産業や対面型サービス業などの業績は低迷したままで、国内景気は「K字型」回復が顕著だ。雇調金の給付額も昨年6月ごろから急上昇し、8月には累計で1兆円を突破。10月に2兆円、今年3月に3兆円、7月には4兆円に膨れ上がり、9月時点で4兆4065億円と政府の想定を大きく上回る規模となった=グラフ。
このため、本来の積立金だけではとても足りず、政府は失業給付に充てる積立金から1兆7000億円を借り入れ、一般会計からも1兆1000億円を投じて何とか帳尻を合わせてきたものの、このままでは財源のパンクは必至だ。
政府は失業給付積立金からさらに借り入れを増やす一方、現在の保険料率の引き上げを検討。本来、失業向けは労使折半で1.2%、能力開発は企業のみで0.35%だが、これまでは資金が潤沢だったため、現在は各0.6%、0.3%に引き下げられている。これを元の料率に戻すことを念頭に置いている。
新たな「安全網」の議論に踏み込めるか
しかし、課題も多い。雇調金制度はあくまでも緊急事態に向けた一時的措置であることから、今回の"大盤振る舞い"をいつまで続けるべきなのか、関係者の間で議論が分かれている。コロナ禍の行方は、...
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