総合人材サービスのMan to Man(マントゥマン、本社・名古屋市)が、派遣に特化した求人検索エンジン『GAYA(ガヤ)』を開設する。派遣元が手掛ける大規模な専門検索エンジンは国内で初めて。「不本意型派遣を減らす」「派遣社員の地位向上」を2大目標に掲げ、独創的なサービスを仕掛ける同社が挑む新たな事業。8月24日の本格始動を前に、『ガヤ』開設に込めた思いと狙い、今後の展望を手島雄一社長に聞いた。(聞き手=大野博司、撮影=上野英和)
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派遣に特化した求人検索エンジン、8月24日開設
ミスマッチ解消を狙いMan to Man(マントゥマン)(8月10日)
――独自の視点で各種サービスを展開しているが、その源泉は。
手島 派遣業界に身を置いて24年になります。この歩みの中で出会った志の高い同志たちから刺激を受け、「業界に何かお返ししたい」との思いがありました。一昨年の社長就任でその気持ちがさらに強くなり、業界の2大課題だと考える「不本意型派遣を減らす」「派遣社員の地位向上」に向き合うことを決意したのです。
例えば昨年1月、社内に『Gozaru(ござる)部』を新設。名古屋弁で「来る」という意味で、年間約3万件の応募者を集める弊社が、採用に困っている企業に募集のノウハウや要所を教えるサービスです。募集戦略の"手の内"になりますが、これで世の中の企業は派遣に頼らずとも人材を自社雇用できます。不本意型には「働く側」と「雇う側」の双方に存在するとみています。雇う側には、人が集まらないから派遣に頼るといったケースもあるので、手法の共有は意義があります。
「派遣元として収益減になるのでは?」との声も聞こえますが、雇う側に直接雇用の意思がある場合の「仕事と人」は、もともと派遣業界が扱うゾーンではありません。舞い込むべきではない案件が、人手不足などによって派遣元に流れて来ているだけです。派遣に頼りたくない企業が募集のノウハウをつかむことで採用に漕ぎつけられれば、それがベストであって「派遣業界に影響はない」というのが持論です。
――派遣社員にどのような取り組みを。
手島 不本意ながら派遣で働いている人と、そうではない人の割合は概ね半々。半数の不本意型を減らすという観点に立ち、弊社では派遣社員全員に希望を聞いています。今の現場と仕事で正社員を望む人、結婚を考えている人、ちょっと遠出の旅行をしたい人など、たくさんの夢や希望を抱いていることがわかります。そうした中で直接雇用を望む人については、積極的に派遣先に直接雇用を提案。抵触日が近づくとさらに「雇ってもらえませんか」とプッシュします。それが叶わない場合は弊社の無期とするのですが、「派遣は無期であってはならない」と考えているので、「消極的無期」というのが正直な思いです。
昨年4月、同一労働同一賃金導入に伴う改正労働者派遣法の施行で、さまざまな待遇改善の方策が盛り込まれました。弊社では従前から交通費は全額支給が当たり前で、内勤社員と同じ自社の共済会への加入も自由で、冠婚葬祭時に規定に則って社員に給付しています。このほか、弊社独自の「子ども手当」などは現場担当からの提案で実現したもので、経営側は実現できるための方策に知恵を絞ります。「現場で働いている人がいて自分たちがいる」「内勤社員と派遣社員は一緒」の認識であり、そうした肌感覚も社内全体で共有できるよう内勤社員には現場をはじめとする全セクションを経験してもらっています。
昨春以降、新型コロナウイルス感染症で休業を余儀なくされる状況に陥った時は、派遣社員に「休業補償10割支給」の対応をとりました。現場に「どうしてあげたい」と水を向けると、満額という声が出たので、経営側は雇用調整助成金の上限がまだ特例措置で上限1万5000円になる前の8330円の時に「10割支給」を決断。簡単な話ではないので、さまざまなシミュレーションを重ねたうえで、内勤社員に「実現するが、みんなのさらなる奮闘と工夫も必要だ」と伝えました。
――派遣の求人検索エンジンの開設は、こうした理念につながるのか。
手島 一連の取り組みが2大テーマに対する自分のできる限界だと思っていました。しかし、ITやAIの急速な進化の中で「検索エンジン」の存在に光明を見出したのです。派遣社員の賃金をよりアップさせたい。それには派遣元の収益が上がらないと実現できない。何か支出を削れるところはないか。社内の基幹ソフトの使用料と求人広告費がかさむ...。「そうだ、派遣専用の検索エンジンを自社制作し、運用方法にアイデアを詰め込めば課題解消に近づくのではないか」。
弊社の派遣社員だけでなく、全国の派遣で働く人、派遣元、求人メディアの3方にメリットが生まれる。それが、検索エンジン『ガヤ』です。
求人情報は時給の高い順、中小派遣元の独自求人も掲載
――実装したアイデアと3方へのメリットとは。
手島 検索エンジン『ガヤ』に載せる仕事は、大手求人メディアが掲載する情報の中から派遣だけを抽出します。『ガヤ』で検索した求人でも、応募する際には掲載元のメディアから申し込む流れで、求人メディアは顧客を奪われる心配などなく募集窓口を拡大できます。このほか、全国の中小の派遣元が持っている求人も「企業ページ」というスタイルで掲載できる仕組みにします。その名は『Crew(クルー)』。こちらは年間契約の定額制で、一般的な掲載費用よりも安価で弾力性を持たせます。派遣元は案件のすべてを求人メディアに出しているわけではないので、そうした求人も広く発信できるようにします。
そして、最大の特徴は求人情報が時給の高い順に掲載されることです。検索上位に載せたい企業の競争を促し、派遣で働く人の時給アップにつなげたい。広告料を払った企業の求人が優先的に上位に掲載される仕組みではありません。ミスマッチ解消も大きな狙いのひとつです。この検索エンジンのボリュームが増してくると、引き合いの強い職種や地域特性など、派遣の市場動向も見えてきます。こうした情報は、みんなで活用して次の戦略・戦術に生かすべきだと思っています。
――運営するMan to Manだけが儲かるのか。
手島 理念と志は最初に話した通りです。業界にかかわるすべてのプレーヤーがメリットを享受し、課題解消に向かう流れを強めたいのです。『クルー』に参加してもらう派遣元から頂戴する掲載費は、システム管理・改修など必要な経費以外すべて『ガヤ』の知名度を高めるためにテレビCMなど広告・広報活動に充てます。この挑戦には多くの派遣元の賛同が必要です。国内の派遣元の3分の1に当たる約1万事業所の参加を目指しています。
――新たな挑戦。運用開始が目前に迫ってきました。
手島 派遣を取り巻く社会課題解決のために、社内でできることはこれからも社員一丸となって実践する覚悟です。同時に、業界全体で「不本意型の派遣を減らす」「派遣社員の地位向上」に寄与すると信じるこの挑戦に注力します。サービスを開始して1年を目安に利用者を対象にしたアンケート調査を実施し、不本意型の状況をウォッチして気になる兆候があれば具体的に打開策を講じていく考えです。
そのためにも、これまで通り真摯に現場の声に耳を傾け、担当者に「働く仲間をどうしてあげたい」「どう変えると良いか」と問い掛けることを続け、業界に身を置く一人として派遣事業のあるべき姿を模索し、切り拓いていきます。(おわり)
手島 雄一氏(てしま・ゆういち)1970年、愛知県生まれ。中京大卒。1997年に日本リガメント(現Man to Man)入社。営業所をスタートに、本社派遣事業部長などを経て、2017年に常務取締役本部長に就任。2019年4月から現職。
Man to Man(マントゥマン)日本リガメントを前身に2001年2月設立。Man to Manホールディングスの中核企業で、労働者派遣や職業紹介、再就職支援、生産・物流業務のアウトソーシング事業などを展開。売上高91億円(2020年6月実績)。名古屋市に本社を置き、静岡、大阪、福岡など13拠点を構える。