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2021年6月14日

コロナ下2年目の最低賃金

引き上げか、再び"凍結"か

 今年の最低賃金の議論はどんな方向に向かうのか――。昨年に続き、2年連続のコロナ下での最賃議論は、すでに労使双方から"基本方針"が出ている。今月下旬に開始される政府の中央最低賃金審議会での方向を示唆しているが、昨年以上の難航が予想される。(報道局)

sc210614.png 最低賃金(最賃)は毎年6月下旬から、公労使の3者で構成する同審議会の「目安に関する小委員会」で非公開審議され、約1カ月後に賃上げ額の「目安」を提示。これを受けて都道府県ごとの委員会で審議・決定し、10月ごろから順次実施となる。賃金水準によってA~Dランクに分かれ、各都道府県の企業はそれぞれのランクの最賃を順守しなければならない。

 日本の最賃は先進国の中で低水準にあったことから、政府は安倍前政権時代から「最賃1000円の早期達成」を目標に掲げ、毎年3%程度の上昇を労使に要請した結果、最賃は上昇し、特に16年度から4年連続で3%台の上昇を続けた。

 しかし、昨年度は新型コロナウイルスの感染拡大で企業活動が大きく制限され、先行き不透明な状況になったことから、小委員会は「目安を示すのは困難。現行水準の維持が適当」と事実上のギブアップ宣言を余儀なくされた。各都道府県で議論した結果、平均1円(0.1%増)アップの902円となり、最賃の上昇は事実上ストップした。

 さて、今年はどうなるのか。すでに労使の攻防は始まっている。菅首相は5月14日の経済財政諮問会議で「コロナ禍で賃金格差が拡大している」として、「格差是正のためにも、最賃平均1000円の早期実現」という従来の政府目標の実現を強調した。これに先立ち、日本商工会議所(三村明夫会頭)など中小企業3団体は4月15日、コロナ禍による経営環境の悪化を理由に「現行水準の維持」を求める要望書を発表。6月4日には三村氏ら3代表が菅首相に趣旨説明し、「このタイミングでの引き上げは、政府による中小企業・小規模事業者の切り捨てのメッセージと受け止められかねない」と訴えた。

 これに対して、連合(神津里季生会長)も6月1日、神津会長から田村憲久厚労相に対して「労働の対価としてふさわしいナショナルミニマム(国が保障する最低水準)への改善を目指した目安額の決定に強い指導を」と要請した。要請内容は、昨年は「改定目安の設定」を強く求めたにもかかわらず、小委員会が経営側の抵抗で目安を打ち出せなかった点を強く意識した言い方になっている。

 この1年、コロナ対応で企業活動が抑制されてきたことから、日本経済は停滞が続いている。実質GDP(国内総生産)は昨年4~6月期が初の緊急事態宣言で前期比8.3%減と大きく落ち込んだ。その後は製造業を中心に内外景気の回復がみられ、2四半期連続でプラスを続けたが、今年1~3月期は2度目の緊急事態宣言によって同1.3%減と再びマイナス成長になった。

 ただ、企業業績は自動車や半導体などの製造業で急回復している。一方で、旅行、ホテル、外食などのサービス業は真冬状態で推移する「K字型」「分断型」の情勢となっている。コロナ禍の直撃を受けている代表業種のサービス業は中小企業が多く、政府や自治体の各種支援を受けてはいるものの、厳しい経営状態が続いている。そうした状況にはあるが、最賃の上昇が経営をさらに圧迫し、雇用にまで響くかどうかは微妙だ。

 日商が2月、全国の中小企業約6000社を対象に実施した「最低賃金引き上げの影響に関する調査」(回答3001社、回答率50%)によると、最賃が16~19年の4年連続で3%台の引き上げとなったことについて、「負担になっている」と回答した企業は55.0%の過半数を占め、中でも宿泊・飲食業では82.0%に達した。この結果、現在の経営に「影響のあった」企業は43.9%あり、こうした企業の対応策として「設備投資の削減」(27.5%)、「正社員の残業削減」(21.8%)などが多かったが、「正社員の採用抑制」(12.2%)や「非正規社員の採用抑制」(10.9%)といった雇用を絞る動きは少なかった(複数回答)。

同一同一など目白押し、雇用に影響か

 もう少し先の動きまで含めて見てみると、中小企業にとって21年度は大企業に1年遅れて同一労働同一賃金が適用されたうえ、来年10月からはパート・アルバイト社員の社会保険の適用が拡大されるなど、人件費コストの増加要因が目白押しだ。このため、仮に今年の最賃が3%台の30円引き上げられた場合、経営に「影響がある」と答えた企業は63.4%に増え、対応策として「非正規の採用抑制」(24.9%)や「正社員の採用抑制」(23.2%)が倍増し、「非正規の削減」も18.3%に上った(複数回答)。日商が「現状維持」を求める背景には、こうした中小の切羽詰まった声がある。

 大和総研も5月下旬、「最賃引き上げに関する5つの視点」と題した詳細なリポートを公表し、...


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