政府が成長戦略に掲げる「キャッシュレス推進策」の中に盛り込まれた「賃金デジタル払い」。この解禁を巡って、労働政策審議会労働条件分科会の議論が難航している=写真。「賃金のデジタル払い」とはどのような仕組みで、労働者にいかなるメリットがあるのか。一方で、導入した場合の具体的な不安材料は何なのか。「丁寧で慎重な議論」を強調しつつも、政府の閣議決定に沿って新年度からの解禁に向けた準備を急ぎたい厚生労働省。難航している背景も含め、議論の現状を整理して今後の展開を探る。(報道局)
労働者は現在、企業から現金で直接、または銀行などの金融機関に振り込んでもらう形で賃金(給与)を手にしている。今回の議論は、この2つの方法以外に、デジタルマネーを使った賃金の支払いを可能にしようとするものだ。「〇〇ペイ」と呼ばれるスマホの決済アプリなどが既に複数存在しており、労働者が希望すれば、賃金の全部または一部を企業がそれらを使って「入金」できることになる。
「デジタル払い」を認める場合は、「通貨で直接、労働者に全額支払う」と定める労働基準法第24条の省令改正が必須。現在、例外で認めている「銀行など金融機関」に「資金移動業者」を加える必要がある。この耳慣れない「資金移動業者」は現在80社(2020年12月現在)存在し、銀行以外で送金サービスを提供する登録制の事業者だ。スマートフォンのアプリ上で決済機能なども提供する「PayPay(ペイペイ)」や「LINEペイ(ラインペイ)」などがそれにあたる。
「便利になるなら解禁すればいい」「デジタル時代だ」「世界の常識」--。容認派からはよく聞かれる言葉だが、労働者保護の観点からみると短絡的にはいかないようだ。まず、資金移動業者の業界団体である一般社団法人Fintech協会の資料などに基づいてデジタル払いのメリットをまとめると、
(1)働き手の給与の受け取り方を多様化し、選択肢・自由度を増やす。
(2)外国人や非正規労働者なども金融サービスの恩恵を受けられるようにする。
(3)デジタル社会におけるサービスの更なる普及、新たな価値の創造に資する。
(4)キャッシュレス化で感染機会の減少に寄与する。
(5)金融機関の支店・ATMの配置見直しが進む中、利用者の利便を補完する。
(6)給付金や自治体施策とも親和性が高い。
など、ウィズ・コロナ時代も見据えた有効性を提言している。
一方、「課題を取り除いてから解禁すべき」との姿勢を明確にする労働組合の連合。労政審での主張や連合主催の「賃金のデジタル払いに関するオンライン集会」(3月11日)での見解によると、具体的な課題として、
(1)資金移動業者が破綻した場合、供託による資金保全義務が課されているとはいえ、払い戻しまでに時間がかかる。
(2)銀行における預金者保護法のような共通の保護規定がない。
(3)労働者の同意にあたっては、銀行口座との違いも理解の上で同意できるようにすることが必要。
(4)資金移動業者の業務範囲は無制限に可能であるが、監督官庁である金融庁が監督指導できるのは資金移動業に限られる。
(5)決済利用に伴う個人情報データの保護・取り扱いについての検討が十分行われていない。
(6)資金移動業は口座への滞留を前提としておらず、滞留資金または滞留防止に関する検討が十分なされていない。
などを挙げ、十分に安全網の整備がなされていない状態で解禁に突き進むことを警戒している。
こうした利便性と課題を踏まえ、厚労省は労政審の中で課題解決に向けた新たなルールや仕組みを打ち出し、労働者側に理解を求めている。しかし...
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