2020年の国内労働市場は、新型コロナウイルスの感染拡大によって大きく変化し、景気拡大に伴う慢性的な人手不足から、一転して「人余り」状態になった。しかし、その実態をみると、過去の「人余り」とは大きく異なる、コロナ特有の事情が浮かび上がってくる。(報道局)
代表的な指標である有効求人倍率と完全失業率。コロナ禍によって企業活動が大きく制限されたことから、昨年はほぼ一貫して求人倍率は下がり、失業率は上がり続けた。その結果、年間平均でも求人倍率は1.18倍(前年比0.42ポイント減)、失業率は2.8%(同0.4ポイント増)に大きく落ち込んだ=グラフ。
日本経済は08年のリーマン・ショックによる落ち込みから、「アベノミクス」で景気は立ち直り、長期の景気拡大が続いたものの、人手不足などの要因で拡大局面は終わりに近づき、求人倍率、失業率とも18~19年にピークアウトしていた。内閣府によると、今回のマクロの景気拡大は12年12月~18年10月の71カ月間続いた。すなわち、19年にはすでに緩やかな後退局面に入っており、コロナは後退のスピードを加速させたとみる方が自然だ。
総務省が1月29日に発表した労働力調査(基本集計)によると、昨年の年間平均の就業者数は6676万人(前年比48万人減)と8年ぶりに減少した一方、完全失業者は191万人(同29万人増)と11年ぶりに増えた。雇用者を正規非正規別にみると、正規は3539万人(同36万人増)だったのに対して、非正規は2090万人(同75万人減)と対照的な結果に。非正規の減少数では男性の26万人減に比べ、女性は50万人減と男性の2倍に達した。また、仕事探しをしていない「無業」の非労働力人口は4204万人(同7万人増)と8年ぶりに増えた点も見逃せない。
しかし、リーマン・ショック当時の09~10年の失業率が5.1%まで急上昇したのに比べれば、今回の失業率は明らかに低水準であり、失業者数も10年の334万人の6割程度にとどまっている。求人倍率もリーマン当時の0.5倍台に比べれば、昨年はまだ1倍台を維持している。これには幾つかの理由がある。
一つは、リーマン当時の反省から、今回は政府が企業に対して雇用調整助成金(雇調金)の活用などを通じた雇用維持を再三にわたって要請したこと。政府や自治体による中小零細企業への休業補償なども、雇用維持に一定の効果をもたらした。企業側も雇用削減より、まずは残業時間の削減などで人件費の節約に努めたところが多かった。
もう一つの要因は、コロナ禍の影響を受けた業種がリーマン当時よりも少ない点だ。今回、大きな被害を受けたのは旅行、宿泊、飲食、サービスなどが代表的な業種。昨春の緊急事態宣言では企業活動や国民生活全体が規制されたため、業績の落ち込みが大きかったものの、その後に感染が下火になるにつれて多くの業種が息を吹き返した。
しかし、飲食やサービスなどは営業時間などの規制が続いたうえ、今年の第2次宣言が追い討ちを掛けたことから、...
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