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2020年9月14日

(寄稿)関西外国語大学外国語学部教授 小嶌典明さん

「労働時間の通算」に異議あり― 改定された副業・兼業ガイドライン-1

 副業・兼業の推進をめぐって動きがあった。7月に閣議決定された政府の経済財政諮問会議や未来投資会議の実行計画にも盛り込まれたテーマで、厚生労働省は最大の課題となっていた「労働時間の管理」を中心に新たなルールをつくった。労働の現場において、副業の拡大につながるものなのか。労働法を専門とする関西外国語大学外国語学部の小嶌典明教授は、「労働時間の通算」に着眼してその系譜と実像を分析。新ルールについても「現実を直視しないかぎり問題は解決しない」と指摘し、アドバンスニュースに寄稿した。全5回を連載(毎日更新)する。(報道局)

はじめに――労働時間の通算とは、いったい何を意味するのか

iskojima.jpg 2020年9月1日、厚生労働省は18年1月に策定された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、これを公表した。ホームページには策定とあるが、いずれも都道府県労働局長宛に発せられた厚生労働省労働基準局長名の通達つまり基発である(注1)

 労働時間は通算するが、副業・兼業先の労働時間は労働者個人の申告による。企業に過大な負担はかけない。ガイドラインの改定については、このような内容になることが検討段階から伝えられてきた。

 労働時間の通算という原則は維持しつつ、通算のもとになる労働時間の算定=時間管理については簡便な方法を認める。そうすれば、副業・兼業の促進につながる。ガイドラインの改定に当たった担当者は、このように考えたらしい。

 だが、このままでは、副業・兼業の促進どころか、これを抑制することになりかねない。改定されたガイドラインを一読したときの、それが正直な感想であった。

 労働時間の通算とは、いったい何を意味するのか。そこに、問題の核心はある。労働時間の通算が割増賃金の支払義務に直結することを、今回の改定は明確にした。労働時間が通算されることを念頭に置いて、副業・兼業の状況を十分に把握し、適切な措置を講じていなければ、使用者が安全配慮義務違反に問われる可能性があることも、改定後のガイドラインでは示唆されている。

 具体的な適用場面を考えれば、副業・兼業をストレートに認めることなど到底できない。場合によっては、現状を維持しようとするだけでも問題は生じる。以下、このことを、順を追って確認していきたい。


注1 平成30年1月31日付け基発0131第2号、および令和2年9月1日付け基発0901第4号がこれに当たる(最近では、このように年月日と基発の間に「付け」を入れるのが一般的となっている)。なお、こうしたガイドラインの性格は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日基発0120第3号)とも共通している。詳しくは、小嶌「『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』は、局長通達だった」(アドバンスニュース2019年1月7日掲載、同『現場からみた労働法2』(ジアース教育新社、近刊)289頁以下所収)を参照。


(つづく)


小嶌典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。関西外国語大学外国語学部教授。大阪大学名誉教授。同博士(法学)。労働法専攻。規制改革委員会の参与等として雇用・労働法制の改革に従事するかたわら、国立大学の法人化(2004年)の前後を通じて、人事労務の現場で実務に携わる。主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)、『メモワール労働者派遣法――歴史を知れば、今がわかる』(アドバンスニュース出版)のほか、最近の著作に『現場からみた労働法――働き方改革をどう考えるか』、『現場からみた労働法2――雇用社会の現状をどう読み解くか』(ジアース教育新社)がある。

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