厚生労働省がこのほど公表したパワーハラスメント(パワハラ)防止の指針案に対して、サラリーマンらから賛否の声が上がっている。パワハラかパワハラでないか、一応の該当例や非該当例を提示したものの、実際の職場では線引きの困難な場合が多く、とりわけパワハラの“加害者”になりやすい管理職たちの戸惑いは大きい。(報道局)
5月に成立した改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)では、パワハラを①優越的な関係を背景にした②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③労働者の就業環境が害されるもの、の3要件を満たした場合と定義。この定義に基づき、厚労省がパワハラの6類型ごとに具体的な該当例と非該当例を労働政策審議会(労政審)に提示したものだ。
6類型は、身体的攻撃、精神的攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の六つ。このうち、身体的攻撃例として「相手を殴ったり、物を投げつけたりする」のはアウトだが、「誤ってぶつかるの」はセーフで、この辺は常識的な線だ。
一方で、精神的攻撃では「人格を否定するような言動」がアウトで、「遅刻などを再三注意しても改善されない場合に、一定程度強く注意すること」がセーフなのはまだわかるとしても、「業務内容などに照らして重大な問題を起こした労働者に一定程度強く注意すること」もセーフとなると、「重大な問題」とは何かなど、とたんに具体性を欠く。
さらに、過小な要求という場合も、「管理職を退職させるため、誰でも遂行可能な業務をさせること」はアウトで、「労働者の能力に応じて、業務内容や業務量を一定程度軽減すること」はセーフになるという。前者は“追い出し部屋”の防止であり、後者は向き不向きもみながら仕事を簡単な内容に変えてみる、と解釈するのが常識であろう。しかし、「一定程度の軽減」も幅があり過ぎて、指針としては不十分だ。
こうした事例集ができたのは、労政審の場で展開された使用者側と労働者側の綱引きの結果。パワハラの内容をできるだけ狭く解釈して、「職場秩序」の維持を図ろうとする使用者側に対して、労働者側は「企業側の“弁解カタログ”として悪用されかねない」と強く批判。一応の線引きが提示されたことで、ここが来年6月からの実務の起点になりそうだ。
厚労省が毎年公表している「個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、都道府県の労働局などに寄せられる相談として、「いじめ・嫌がらせ」が年々急増しており=グラフ、2018年度は最も多い4分の1を占めた。この中には指針案が示したパワハラ事例に該当するケースが多くを占めていると推測されるが、厚労省によると「職場の日ごろの人間関係が大きな要因になっている」といい、指針の事例集は典型例に過ぎず、実際の職場で生じているトラブルは「個別性が強い」ともいう。
深刻なメンバーシップ型職場のパワハラ
日本の場合、パワハラは職場という「閉じられた空間」で生じる人間関係のトラブルといった側面が強く…
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