長期間の人手不足が転職市場にジワジワ影響を及ぼしつつあり、転職者数の増加傾向が続いている。新卒一括採用、年功序列、終身雇用を前提にしてきた戦後日本企業の雇用システムは、確実に大きな曲がり角に差し掛かっている。その原因は……。(報道局)
総務省の労働力調査によると、2018年の年間転職者数は約329万人(前年比5.8%増)と8年連続の増加で、リーマン・ショック直前の08年の335万人に次ぐ規模となった。年齢層ではこれまでの中心だった「34歳以下」が4割台の横ばい状態なのに対して、最近は「45歳以上」の伸びが年々増えており、18年は38%を占めるまでになった。
経団連企業でも転職は普通
ホワイトカラーの転職仲介が中心の日本人材紹介事業協会の調査でも、ほぼ同様の傾向が表れている。18年度下半期(18年10月~19年3月)の業界大手3社の転職紹介実績は3万8316人(前年同期比23.3%増)の過去最高を記録。転職者はリーマン・ショックで09年に大きく落ち込んだが、それ以降は毎年増え続け、人手不足が顕在化した14年ごろからは2ケタ増の勢いで増え続けている。
業種は流通・小売・サービス、IT・通信、電機・機械などが中心。求職者の年齢は全年代とも増えているが、昨年は「41歳以上」が4割増と最も増えており、従来の転職の常識だった「35歳の壁」は崩れつつある。
一方、厚生労働省の雇用動向調査では、18年の転職者の賃金動向は「増えた」が過去最高の37.0%を占め、「減った」の34.2%、「変わらない」の27.2%を上回った。「増えた」人のうち、1割以上増えた人が25.7%に上った。年齢別でも「19歳以下」から「45~49歳」まで4割以上が増えており、いずれも「減った」を上回っている。賃金増をけん引しているのは、パートタイマーが主力だが、正社員も徐々に「増えた」の比率が高まっている。日本は転職市場が未発達で、転職者の賃金待遇は長年不利な状態が続いていたが、近年はここでも「売り手市場」になっている。
これらの統計から浮かび上がるのは、終身雇用制の衰退という大きな局面転換だ。戦後日本の場合、会社員は新卒から定年まで一つの会社で勤め上げる終身雇用が一般的で、多くの企業はこれを前提に社員にスキルを蓄積させ、給与体系も年功序列が基本だった。欧米で一般的な「ジョブ型雇用」と異なり、会社に所属する「メンバーシップ型雇用」が主流で、若い労働力が豊富な高度成長期はそれが奏功した。
しかし、少子高齢化で労働力が年々減少する一方、人口の多い団塊の世代が退職すると、人手不足が一気に顕在化。社内で人材を育てる余裕を失い、中途採用の「即戦力」を求める企業が増えた。もともと、社員の定着率が低い流通・小売り・サービスに加え、IT・通信や電機・機械などの業種でも転職が増えているのは、技術者を中心にした売り手市場になっているためだ。
一方、働く側も終身雇用をあてにできない事情が出てきた。平均寿命が延びて就労年齢が次第に上がる半面、企業や事業の“寿命”は逆に短命化し、一つの会社に最後まで勤められる保障が少なくなっているためだ。
大企業でも早期退職募集
東京商工リサーチの調査では、18年中に倒産した企業の平均寿命はわずか23.9年で、業歴30年以上の企業が33%を占めた。 また、主要上場企業の希望・早期退職者募集も、今年は1月~5月時点で16社、6697人に達し、最も少なかった昨年1年間の12社をすでに上回っている。
その中には…
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