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2019年8月12日

(寄稿)関西外国語大学外国語学部教授 小嶌典明さん

労働力調査を読み解く――イメージとは異なる実像(1)

 政府が「就職氷河期世代」の“救済”に乗り出す。バブル崩壊による長期不況が続いた時代の高校・大学卒業生らを対象にした支援策だが、急ごしらえの感は否めない。こうした中、関西外国語大学外国語学部の小嶌典明教授は、総務省の労働力調査を読み解きながら、就職氷河期と呼ばれる世代の実像を冷静に分析。「イメージに訴える政策」に警鐘を鳴らすべく、アドバンスニュースに寄稿した。3回に分けて連載する。更新は14日と16日。(報道局)

1 はじめに――求められる現状の正確な把握

sc190812_5.jpg 2003年から18年までの15年間に、わが国の生産年齢人口(15~64歳)は928万人減少。一方で、65歳以上の高齢者は1086万人増加した。総務省統計局の労働力調査[注1]からは、このような事実が明らかになる[注2]。
 労働力調査は、15歳以上人口を対象としており、その32.0%(2018年)を占める65歳以上の高齢者も、当然、調査対象に含まれる(以上、表1)
sc190812.png いわゆる非正社員、労働力調査にいう「非正規の職員・従業員」は、2003年の1504万人が、18年には2120万人を数えるまでになった。この間に増加した非正社員616万人のうち、258万人(41.9%)を65歳以上の高齢者が占める。これに60代前半層(60~64歳)を加えると、379万人(61.5%)となる表2。人口の高齢化が、非正社員の増加に大きく寄与したことは疑いを容れない。

 他方、非正社員については、その約7割を女性が占める(1451万人、68.4%/2018年)という現実もある表3

 こうした女性の労働力人口(就業者、雇用者)が、この15年間に大幅に増えたことも、非正社員が増加したことの一因といえる。ちなみに、生産年齢人口でみると、男性の労働力人口(就業者、雇用者)は、この間に逆に減少している表4

 このような女性の労働市場への積極的な参入が、非正社員の増加に大きく影響したことも間違いない。
 ただ、これだけでは大雑把に過ぎる。現状をより正確に把握するためには、ある年齢階級に属する男女が5年後、10年後、15年後に、それぞれどのような行動をとったのかを知る必要がある。

 幸い、労働力調査については、5歳刻みの年齢階級別データが年ベースでは以前から公表されており、例えば、2003年に20~24歳であった者が10年後どのような足跡を残したのかは、13年の30~34歳のデータをみれば、ある程度わかる。
 非正社員は、どのようにして増加したのか。就職氷河期世代は、他の世代とどう違うのか。本稿で取り上げるこうした問題も、このような縦断調査に準ずる手法[注3]を用いれば、実像にさらに近づくことが可能になる。筆者は、こう考えるのである。

 

注1 以下、2003年および08年については、労働力調査(詳細集計)を、2013年および18年については、同(基本集計)の集計結果(いずれも年平均)を活用している。正確には、公表された当時のデータを使用しており、対象項目が限定されることの多い長期時系列データ(2010年および15年の国勢調査基準のベンチマーク人口に基づく時系列接続用数値)は使用していない。その結果、2008年および13年の数値については、長期時系列データとの間にわずかな違いがみられる。
注2 ただし、年齢階級別にみると、いったん減少した人口がその後また増加するといった説明に窮する「現象」もみられる(例えば、2003年における15~19歳人口は738万人であったが、08年(20~24歳)には662万人にまで減少。その後、13年(25~29歳)には691万人、18年(30~34歳)には697万人へと、増加に転じている)。なお、同様のことは、総務省統計局の人口推計についてもいえる。
注3 縦断調査とは、同一のサンプルを使用した追跡調査のことをいう。その例としては、厚生労働省の「21世紀出生児縦断調査」や「21世紀成年者縦断調査」がよく知られている。労働力調査の場合、調査対象となるサンプルには、このような同一性が認められないことから、本来の縦断調査に比べると、やや厳密さに欠ける。「縦断調査に準ずる手法」とした理由は、ここにある。

(つづく)
 

小嶌典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。関西外国語大学外国語学部教授。大阪大学名誉教授。同博士(法学)。労働法専攻。規制改革委員会の参与等として雇用・労働法制の改革に従事するかたわら、国立大学の法人化(2004年)の前後を通じて、人事労務の現場で実務に携わる。主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)、『メモワール労働者派遣法――歴史を知れば、今がわかる』(アドバンスニュース出版)のほか、2019年に出版された最新作に『現場からみた労働法――働き方改革をどう考えるか』(ジアース教育新社)がある。

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