本連載ⅰでは、さまざまな面から生活改革が期待される未就学児の父親に焦点を当て、その生活のメルクマールとして家族との夕食回数に注目している。連載3回目では、未就学児および配偶者と同居している父親を、夕食回数によって3つに区分し、その区分別の特徴をみていくこととしたい。区分の設定においては、休みの日以外はほぼ夕食を共にできていないであろう月当たり「10回」と、休みの日に加えて週1日程度は平日に家族と夕食を共にできていると想定される「15回」を境界とした。
分析に使用するデータは電機連合が2017年5~6月にかけて組合員1万86名および管理職605名を対象として実施した「『ライフキャリア』に関するアンケート」ⅱである。(次回は2月28日に更新)
1 仕事と仕事以外の時間配分への満足度や「けじめ」意識~夕食回数の多い父親は「けじめ」意識が強く、時間配分にも満足
夕食回数15回以上の父親は、仕事をする時間とそれ以外の生活時間の「時間配分」の現状に対する満足度が圧倒的に高い(表1)。<満足している>(「満足している」+「どちらかといえば満足している」)とする割合は15回以上の53.9%と過半数を占め、10回未満を25.3ポイント上回っている。
また、この調査では、「あなたは、ご自身の働き方を振り返ってみて、仕事をするときと仕事をしないときの『けじめ』をうまくつけられていると思いますか」とたずねている。この回答結果を夕食回数別にみると、夕食回数が多いほど<そう思う>(「そう思う」+「どちらかといえばそう思う」)が高まっている(表2)。具体的には15回以上で<そう思う>が74.1%を占め、10回未満を17.0ポイント上回っている。
表1 夕食回数別 時間配分への満足度や生活時間
表2 夕食回数別 仕事と仕事以外の「けじめ」
2 休暇取得や働き方の現状~夕食回数が多い父親は休暇取得率が高く、労働時間が短い
年次有給休暇の取得率(昨年度の年休新規付与日数に占める年休取得日数の割合)をみると、夕食回数が多いほうが高くなる傾向がより顕著である(表3)。夕食回数15回以上の年次有給休暇の取得率を10回未満と比べると、「25~50%未満」が10.1ポイント低く、「75~100%未満」が9.5ポイント高くなっている。
普段の1ヵ月の時間外労働時間については、いずれも夕食回数15回以上のほうが明らかに短くなっている。夕食回数15回以上の普段の1ヵ月の時間外労働時間を、10回未満と比べると、「15時間未満」では14.6ポイント上回り、「30~45時間未満」では14.8ポイント下回っている。
表3 夕食回数別 年休取得率や労働時間
3 勤務先の特徴や昇進・昇格の状況~大企業、営業・SE、係長クラス、裁量労働、昇進・昇格が早い父親は家族との夕食回数が少ない
夕食回数15回以上の勤務先の特徴としては、10回未満に比べて、①企業規模は「5000人以上」(46.3%)が少なく、「300~999人以下」(19.7%)が多いこと、②現在の職種は「営業職」(9.5%)や「SE職」(8.2%)が少なく、「製造関連職」(22.0%)が多いこと、③現在の役職は「係長クラス相当」(15.1%)が少なく、「一般」(73.8%)が多いこと、④勤務形態は「裁量労働」(4.7%)が少ないこと、があげられる(表4)。
また、同期入社者と比べて昇進・昇格が早いと思うか、社内での評価をたずねた結果をみると、夕食回数15回以上は10回未満に比べて、<早いと思う>(「早いと思う」+「まあ早いと思う」、15.3%)が少なく、<遅いと思う>(「やや遅いと思う」+「遅いと思う」、33.5%)が多い(表5)。家族との夕食よりも仕事を優先するほうが、現状においては社内で評価が高くなる実態にあることが示唆されている。
表4 夕食回数別 勤務先の規模や仕事内容
表5 夕食回数別 同期入社と比べた昇進・昇格
ⅰ:本連載は松浦民恵(2018)を元に、一部加筆・変更して執筆したものである。執筆に当たっては、電機連合に設置された「ライフキャリア研究会」(主査:佐藤博樹中央大学大学院教授)の皆様から有益なアドバイスを頂いた。また、「『ライフキャリア』に関するアンケート」の分析においては、調査の実施主体である電機連合、調査の集計・分析を委託された労働調査協議会からご支援頂いた。ここに記して御礼申し上げたい。もちろん、本章における主張は筆者の見解であり、誤りがあればその責はすべて筆者に帰する。
ⅱ:電機連合傘下の各企業別組合を経由して、調査票の配布・回収が行われた。有効回答は組合員8399名(有効回答率83.3%)、管理職547名(同90.4%)の計8946名である。
松浦 民恵氏(まつうら・たみえ) 1966年、大阪府生まれ。89年に神戸大学法学部卒業、日本生命保険入社。95年にニッセイ基礎研究所。2008年から東京大学社会科学研究所特任研究員、10年に学習院大学大学院博士後期課程単位取得退学、同年からニッセイ基礎研究所主任研究員。11年に博士(経営学)。17年4月から法政大学キャリアデザイン学部准教授。専門は人的資源管理論、労働政策。厚生労働省の労働政策審議会の部会や研究会などで委員を務める。著書、論文、講演など多数。