本連載1では、さまざまな面から生活改革が期待される未就学児の父親に焦点を当て、その生活のメルクマールとして家族との夕食回数に注目している。連載2回目は、夕食回数と退社時間・帰宅時間等との関係を分析し、何時に帰れば家族と夕食を共にできるのかについて考えてみたい。(次回は2月25日に更新)
分析に使用するデータは電機連合が2017年5~6月にかけて組合員1万86名および管理職605名を対象として実施した「『ライフキャリア』に関するアンケート」2である。
1 出・退社時刻等の現状~未就学児の夕食時間帯に帰宅できている父親は3割
育児・家事の負担が大きく、その多くを母親が担っている家庭において、家族と夕食を共にしたいという父親の希望を実現するためにはどうすればよいのかという点が、本連載を通じた筆者の一番の問題意識である。そこで、以下においては、未就学児および配偶者と同居している父親(1560件)に絞って分析を深めていきたい。
まず、未就学児および配偶者と同居している父親について、自宅を出る時刻、出社時刻、退社時刻、帰宅時刻等の分布をみておきたい(表1)。これらの時刻については、「平均的な出勤日の1日の状況を24時間法で」たずねている(交代勤務の場合は昼勤のケース)。自宅を出る時刻は「7時半~8時前」(29.5%)、「7時~7時半前」(29.0%)、「8時~8時半前」(19.1%)が上位3位となっている。出社時刻は「8時~8時半前」が37.4%と最も高く、次に「8時半~9時前」(27.6%)が続いている。
退社時刻は「19時~20時前」(27.8%)、「20時~21時前」(26.5%)が上位2位に並んでいる。また、「18時~19時前」が15.8%みられる一方で、21時以降もあわせて2割弱となっている(「21時~22時前」が12.4%、「22時以降」が7.4%)。帰宅時刻は「20時~21時前」が28.5%と最も高く、次に「21時~22時前」(21.8%)、「19時~20時前」(19.1%)が続いている。未就学児の主な夕食時間帯である夕方18時台もしくは19時台に帰宅できている「20時前」の割合はあわせて3割強である。
これらの結果をもとに算出した朝の通勤時間、退社から帰宅までの時間も、参考までに確認しておきたい。朝の通勤時間、退社から帰宅までの時間のいずれについても、「30~45分」(各24.3%、28.4%)、「60~75分」(各20.5%、27.2%)が上位2位で拮抗している。また、朝の通勤時間、退社から帰宅までの時間ともに、「90分以上」(各11.5%、14.9%)が1割を超えている点も注目される。
表1 出・退社時刻等の現状
2 各時刻間の関係~父親は退社後概ね「寄り道」せずに家に帰っている
次に、自宅を出る時刻別に出社時刻をみると、「6時半前」に自宅を出る者の59.2%は「7時半前」に出社しており、出社時間が早いがゆえに自宅も早く出ている傾向がみてとれる(表2)。ただし、8時以降の出社も、「6時半前」に自宅を出る者の2割弱におよんでおり、自宅を出る早さが通勤時間の長さに起因する面も大きいと考えられる。一方、「8時半以降」に自宅を出る者の41.9%が「9時~9時半前」に出社しており、職住近接の傾向がみてとれる。加えて、「9時半以降」の出社も35.5%にのぼり、遅めの出社が許容されている様子もうかがえる。
表2 自宅を出る時刻別 出社時刻
出社時刻別に退社時刻をみると、「7時半前」に出社していると「19時~20時前」に退社する割合が32.7%と全体に比べてやや高いが、顕著な差とまではいえない(表3)。早い出社が早い退社に必ずしもつながらず、むしろ長時間労働の誘因になっていることも懸念される。また、「9時半以降」に出社する者の4人に1人は退社時刻が「22時以降」となっており、出社が遅いと夜型の勤務になる傾向がうかがえる。
表3 出社時刻別 退社時刻
退社時刻別に帰宅時刻をみると、「18時前」に退社している者は「19時前」の帰宅が88.8%を占め、「18~19時前」に退社している者も「19~20時前」(51.4%)と「19時前」(30.0%)があわせて8割強にのぼる(表4)。いずれの退社時刻についても、退社時刻から1時間以内に帰宅している割合が大部分を占めている。あくまでも平均的な出勤日に関する回答結果ではあるが、退社と帰宅の間の顕著なタイムラグ、すなわち家に帰るまでに「寄り道」している様子はみてとれない。
表4 退社時刻別 帰宅時刻
3 各時刻と夕食回数の関係~家族と夕食を共にできるタイムリミットは19時前退社
さらに、自宅を出る時刻、出社時刻、退社時刻、帰宅時刻別に、家族と夕食を共にしている回数(平均値)をみてみたい。
自宅を出る時刻別には、「6時半前」で夕食回数が10.8回と、他の時間帯に比べてやや少なくなっている(図1①)。前述のとおり、「6時半前」に自宅を出る者は出社も早いが、早い出社が必ずしも早い退社につながっていないこと、通勤時間が長い傾向がみられることが、家族と夕食を共にできる回数の少なさに影響している可能性がある。
出社時刻については「9時半以降」での夕食回数が10.8回とやや少ない(図1②)。出社の遅さは退社の遅さにつながり、勤務が夜型になっている傾向がみられたことと符合する結果である。
退社時刻別・帰宅時刻別の夕食回数は、時間帯が1時間ずれて同じような傾向となっている(図1③・④)。退社時刻が「18時前」、帰宅時刻が「19時前」であれば夕食回数は各19.7回、18.8回と顕著に多い。退社時刻が「18時~19時前」、帰宅時刻が「19時~20時前」でも各14.5回、14.8回は家族と夕食を共にできている。一方、夕食回数は退社時刻が「20時~21時前」、帰宅時刻が「21時~22時前」になると各10.8回、10.2回にまで低下し、21時以降の退社、22時以降の帰宅ではさらに低下して10回を切っている。
週休2日制で祝祭日を含む休みの日はすべて家族と夕食を共にし、平日は一切家族と夕食をとらないとすれば、家族との夕食回数はおよそ月10回程度になる。休みの日に加えて、週1日だけ平日に家族と夕食を共にする場合には、夕食回数はおよそ15回程度になる。前述の分析結果を踏まえると、およそ15回の夕食回数を確保しようとすれば、退社時刻は19時前、帰宅時刻は20時前がタイムリミットになる3。
図1 時刻別にみた家族との夕食回数
1:本連載は松浦民恵(2018)を元に、一部加筆・変更して執筆したものである。執筆に当たっては、電機連合に設置された「ライフキャリア研究会」(主査:佐藤博樹中央大学大学院教授)の皆様から有益なアドバイスを頂いた。また、「『ライフキャリア』に関するアンケート」の分析においては、調査の実施主体である電機連合、調査の集計・分析を委託された労働調査協議会からご支援頂いた。ここに記して御礼申し上げたい。もちろん、本章における主張は筆者の見解であり、誤りがあればその責はすべて筆者に帰する。
2:電機連合傘下の各企業別組合を経由して、調査票の配布・回収が行われた。有効回答は組合員8399名(有効回答率83.3%)、管理職547名(同90.4%)の計8946名である。
3:連載1回目で紹介した、子ども(4歳児)の夕食時間は18時台、19時台であわせて8割以上を占めるという調査結果(厚生労働省「第5回出生児縦断調査」)を踏まえると、19時前の退社、20時前の帰宅では少なくとも夕食のスタート時間に間に合っていない懸念が大きいが、ここではひとまず、データ上ほぼ15回の夕食回数の確保できているこの時間帯を目安として、議論を進めることとしたい。
松浦 民恵氏(まつうら・たみえ) 1966年、大阪府生まれ。89年に神戸大学法学部卒業、日本生命保険入社。95年にニッセイ基礎研究所。2008年から東京大学社会科学研究所特任研究員、10年に学習院大学大学院博士後期課程単位取得退学、同年からニッセイ基礎研究所主任研究員。11年に博士(経営学)。17年4月から法政大学キャリアデザイン学部准教授。専門は人的資源管理論、労働政策。厚生労働省の労働政策審議会の部会や研究会などで委員を務める。著書、論文、講演など多数。