大学生の「就活ルール」をめぐり、議論がにわかに沸騰している。経団連の中西宏明会長が3日の記者会見で、就職活動のルール廃止をにおわせる見直しを表明したためだ。企業の採用活動については、かねてよりルールの形骸化と見直しの必要性が指摘されていたが、中西会長の突然の見直し表明で、企業、大学、学生らの関係者には戸惑いと不安も広がっている。(報道局)
企業の新卒採用活動について、経団連は「採用選考に関する指針」を定めて加盟企業に順守を求めている。これについて中西会長は「経団連が指針を定め、日程の采配をしていることには違和感を覚える」と疑問を呈し、「現在の新卒一括採用についても問題意識を持っている。企業が人材をどう採用・育成していくかは極めて大事だが、終身雇用、新卒一括採用をはじめとするこれまでのやり方では成り立たなくなっている」と理由を説明。「各社の状況に応じた方法があるはずであり、企業ごとに違いがあってしかるべきだ」と述べた。そのうえで、中西会長は指針のあり方について、日程だけでなく、採用選考活動のあり方から議論していく必要性を示した。
中西会長の発言は、指針の形骸化を認め、終身雇用や新卒一括採用に強い疑問を投げ掛けており、これまで繰り返されてきた採用活動の日程変更といった小手先の課題にとどまらず、戦後の企業社会を形成してきた新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった制度変更をも視野に入れたルール変更論だけに、大きな影響を及ぼすのは必至だ。
毎年開かれる合同会社説明会。
こんな光景は姿を消す?
就活ルールの歴史は古く、1953年、学生の学業専念を念頭に置いた大学側の「就職協定」が起源。しかし、高度成長期や2度の石油ショックなどで、企業側の「青田買い」や内定取り消しなどが横行したため、97年に協定は廃止され、代わって日経連(当時)が企業側の自主規制を定めた「倫理憲章」を制定、それが経団連に引き継がれて現行の「指針」に至っている。しかし、指針を守る企業は年々減り続け、「優秀な学生」を奪い合う“早い者勝ち”の世界になっているのが実情だ。
現行の指針では、「3月に会社説明会、6月に採用面接、10月に内定」の解禁日を設定しているが、実施対象は2017年春卒の学生から3年間。これまで、就活の長期化から大学や学生から「学業に支障が出る」との苦情が相次いだため、15年、16年と解禁の日程をクルクルと変え、そのたびに大学・学生側は振り回されてきた。
一方で、第2次安倍政権が稼働した12年以降、日本経済は順調に好況を維持するも、労働人口の減少も手伝って、多くの企業が慢性的な人手不足にあえぐ状況となり、新卒市場も学生側のかつてない売り手市場になっている。
ディスコの調査によると、今年の内定率は5月1日時点で42.2%、6月1日時点で65.7%に達し、「10月内定」の規定を守る企業などないに等しいうえ、他社の選考辞退を学生に強要する「オワハラ」が横行するなど、低次元の人材獲得競争も過熱している。
その傍らで、外資系企業、IT企業、ベンチャー企業など、経団連に加盟していない企業は通年採用を軸に学生を確保しており、ユニクロや楽天といった指針と関係なく採用活動を優位に進める新興大手企業が増えるなど、指針の形骸化に拍車を掛けている。その意味で、中西会長の見直し発言は、遅きに失したとはいえ、的を射た内容と言える。
崩れ行く終身雇用、広がる通年採用
問題は現行指針に代わる代替案。そもそも、一切規制を設けない自由競争にするか、何らかの規制は残すかとなると、大学側を中心に後者を支持する声が多い。戦後70年近く続いた制度はそれなりに社会に固定されており、企業も学生も「一括採用」方式を前提に動いているためだが、日程変更など小手先の対応では何の解決にもならないことは証明済み。やはり...
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