解雇の金銭救済制度の創設――。「必要・容認論」と「不要・否定論」が真っ向からぶつかる労働政策上の課題だ。雇用や経済の活性化、成長戦略の一環として捉える見方もあるが、それでも賛否は割れる。政府は「現行の紛争解決手段に加え、労働者救済の選択肢が増える」との理由で法制化を目指している。厚生労働省が12日に設置した学識者検討会(委員6人)は、制度創設に向けたステップで、来年の労働政策審議会のテーブルをめざした“最終工程”となりそうだ。想定している新たな制度とは、どのような仕組みなのか。「解雇と金銭解決」の動きに関する主な経過や、賛否双方の主張などを整理する。(報道局)
この課題は、日本の紛争解決システムが不透明との指摘があることから、2003年以降、労働政策審議会などの場で断続的に議論されてきた。結論に至らない中、政府の規制改革会議(当時)が2015年3月、約3年に及ぶ議論を経て「労使双方が納得する雇用終了の在り方」と題する意見書を提出。また、政府は「日本再興戦略改訂2015」(同年6月)で、透明・公正でグローバルにも通用する解決システムの構築に向けて議論することを閣議決定し、あらためて今回の流れにつながるルール化の“気運”をつくった。
これを受けて、15年10月に厚労省は有識者会議「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」(労働紛争解決検討会)を設置。委員の構成は「労使双方の理解を得るため」(厚労省)に、大学教授、経団連などの使用者側、連合などの労働者側、紛争処理に携わる弁護士ら22人に上り、この種の検討会としては異例の大所帯となった。
「労働紛争解決検討会」は約1年半、計20回にわたる議論を経て17年5月に報告書を取りまとめた。03年や05年に浮上した案について「課題が多い」「困難」と指摘したうえで、新たに提案された「裁判の無効判決とは別に、労働者側が金銭救済を求め、企業側が応じれば労働契約を終える裁判外の解決」という手法は、「選択肢として考え得る」と記された。いずれの手法であっても創設自体に反対する労働者側の意見も併記されたが、報告書は「創設の可能性を開く」ことが基調となっていた。連合は「カネさえ払えば首切り自由の制度」、「企業のリストラの手段として使われる懸念もある」などと批判している。
本来であれば、この検討会の報告書を「たたき台」に労政審・労働条件分科会に諮ることとなるが、「選択肢として考え得る」案について法技術的な専門家の検討が必要とした報告書の一文や、政府の「新しい経済政策パッケージ」(昨年12月)に記された「法技術的な論点の専門的検討に着手」を踏まえ、同分科会が検討会設置を厚労省に要請。こうして12日に発足したのが、学識者会議「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」(解雇時の金銭救済検討会)となる。これまでの経過は下記の通り。
6月30日=政府が「日本再興戦略」改訂2015を閣議決定。透明・公正でグローバルにも通用する労働紛争解決システムの構築に向けて議論すること―を盛り込む。
10月29日=労働者の不当解雇など労使紛争解決制度のルール化の是非を議論する厚労省の有識者会議「労働紛争解決検討会」を設置。
2017年5月29日=「労働紛争解決検討会」が報告書を取りまとめ。
12月8日=政府が「新しい経済政策パッケージ」を閣議決定。報告書を踏まえ、労政審で法技術的な論点について専門的な検討に着手、と明記。
12月27日=労政審・労働条件分科会が「有識者による法技術的な議論の場」を厚労省に要請。
2018年6月12日=厚労省が「解雇時の金銭救済検討会」を設置。
「労働紛争解決検討会」の労使主張と「金銭救済検討会」の展開
この課題については、法的な専門用語が並ぶことに加え、厚労省が多方面に配慮した慎重な「言い回し」が多いことなどから難解に見えるが、全20回におよぶ「労働紛争解決検討会」の委員の発言を要約すると賛否や課題が分かりやすい。新制度の...
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