認定NPO法人ささえあい医療人権センター「COML(コムル)」は、患者中心の開かれた医療の実現を目指す支援組織。電話相談を皮切りにさまざまな活動を展開してきたが、2009年から「医療を支える市民養成講座」、今年からは「医療関係会議の一般委員養成講座」を開始するなど、人材育成に取り組んでいる。山口育子理事長に狙いを聞いた。(聞き手=大野博司、本間俊典)
―― コムルは「賢い患者」の育成を合言葉に、医療者と患者のより良いコミュニケーションの実現を目指しています。活動は多岐に渡っていますね。
山口 コムルの活動は、創始者の辻本好子(2011年死去)が1990年にスタートさせました。私は辻本と20年間二人三脚で歩んできて、辻本が亡くなった後、跡を継ぎました。それまで「医療は医師にお任せ」の時代が長く続きましたが、もうそれだけではやっていけない時代です。発足時から続けている「電話相談」では、これまで約5万8000件の相談を受け付け、情報提供やアドバイスをしてきましたが、医療側と患者・市民の間の溝を痛感しています。
電話相談のほかには、患者と医療者の「コミュニケーション講座」、ミニセミナー「患者塾」、医療者のコミュニケーションの相手役となる「SP(模擬患者)」、依頼された医療機関に出向いて患者視点の提言を行う「病院探検隊」など、さまざまな活動をしています。
―― 09年から始めた「医療を支える市民養成講座」は受講者が400人を超えたそうですが、どんな講座ですか。
山口 「賢い患者」になると言っても、日本では医師などの医療者に比べると患者・家族が得られる情報は限られ、“お任せ医療”にならざるを得ませんが、それは医療側にとっても決して良いことではありません。そこで、医療の歴史、現代の医療の課題、医療機関や医療者の種類と役割、医療相談の実際、医療費の知識など、患者側として知っておくべき基本を勉強してもらおうと始めたのが市民養成講座です。
400人以上が受講した市民養成講座
1回3時間の5コースで、テキスト作成や講師はすべて私自身がやりました。当初は「10人も集まればいいか」と思っていたのですが、マスコミで紹介されたこともあって120人も集まり、びっくりしました。受講者は主婦や患者が中心ですが、医師などの医療者もいます。これまで約350人の受講者に修了書をお渡ししました。各講座の単発受講も受け付けているので、それも合わせると400人を超えます。
大阪で成果が出ているのを首都圏の人たちが知り、「東京でもやってほしい」という希望が強まってきたので、数年前から東京でも8月と10~12月の2回、養成講座を始めました。受講者は毎回20~30人ほどで、大阪に比べると若い人たちが多く、医療問題への強い関心がうかがえます。
意欲のある患者・市民が増えている
―― 受講者はどんな動機が多いですか。
山口 「医療にまつわる何かをして、社会の役に立ちたい」と思っている人が多いですね。具体的には、「治療・入院などでお世話になった恩返しがしたい」「もっと医療について学びたい」「医療機関に外部の風を吹き込みたい」などです。そのためには医療の知識を得る、制度・仕組みを知る、課題を学ぶといった勉強が必要になります。それらを経験することで、初めて医療と協働できる冷静な患者・市民が育つのだと思います。
それは医療のスペシャリストを育てるということではなく、多数の“中間層”の全体のレベルを上げたい。“中央値”をより高い方向に移動させたい。そんな気持ちです。(つづく)
山口 育子氏(やまぐち・いくこ)
1965年、大阪市生まれ。91年、自らの患者体験を通じてCOML(コムル)創始者の辻本好子氏(2011年死去)と出会い、92年2月からCOMLスタッフとして相談、編集、渉外などを担当。02年4月、法人化した「NPO法人ささえあい医療人権センターCOML」専務理事兼事務局長。11年8月、辻本氏の後継者として理事長に就任。厚労省社会保障審議会医療部会など、多数の審議会委員を務める。HPはhttp://www.coml.gr.jp/。