日本のモノづくりは“崩壊”したのだろうか。近年、大企業の組織的な不祥事が続出している。オリンパスや東芝の不正会計を除いても、東洋ゴム工業の免震データ偽装、旭化成建材の杭打ちデータ改ざん、三菱自動車のリコール隠し・燃費不正、さらにタカタのエアバッグ不具合などの事件も加えると、枚挙にいとまがない。
そこへ日産自動車やスバルの無資格検査員による新車検査、神戸製鋼所(神鋼)の製品データ改ざんが大問題になった矢先、三菱マテリアルや東レの各子会社のデータ改ざんまで発覚した。不思議なことに、この種の不祥事は不祥事の連鎖を呼ぶ。「今度はどの会社か。ウチではないだろうな」と疑心暗鬼にかられている経営者も多いはずだ。
EV車で押せ押せの日産だったが…
=今年の東京モーターショー
日産の場合は、国内約120万台にも及ぶ一大リコールに発展した。神鋼ではデータ改ざんしたアルミ製品などの納入先企業が次第に増え、少なくとも約500社に及んでいる。日産は40年近く前から、神鋼は半世紀近く前から続いていたというから、不正体質が常態化していたことになる。
日本のメーカーは1985年のプラザ合意以来、常に円高の逆風と途上国の追い上げを受けながら、世界に冠たる高品質の製品を提供し続けてきた。この30年の間に、何かが根本的に変わったとしか思えない。
最も考えられることは、コスト削減の不断の圧力が製造現場を覆い、越えてはならない一線を越えてしまったことにありそうだ。一度越えて何事もなければ、今度はそれが“普通”になり、上司や同僚らも口をつぐんで見て見ぬふりをする。その結果、不正は“組織ぐるみ”になるが、事故でも起こらない限り、それが表に出ることはまずない。そんな構図が容易に浮かんで来る。
神鋼の車体用アルミは日産にも卸しており、日産もあわてて調べ、安全確認したそうだ。データ改ざんされた神鋼のアルミを使って作った新車を、日産の無資格検査員がOKを出す。ある意味、これほど漫画チックで情けない光景はない。
同時に、神鋼の製品を使っている自動車、JR、航空各社などの“被害者”は「独自調査」と称して、次々と「安全宣言」を出している。しかし、どこがどう「安全」なのか、最終利用者にわかる説明を尽くしているとは言い難い。「安全」であれば、神鋼のインチキは結果的に問題がなかったことになり、改ざんがもたらした信用低下を帳消しにしかねないからだ。
背景に製造業の国際競争力の低下
重要なことは、安全性をめぐる目先の問題だけではない。両社をはじめとする不正が日本のモノづくりの水準を大きく落とし、グローバル競争から落伍しかねない衝撃を与えたことにある点だ。「日本企業はそこまで追い詰められているのか」と内外の不信感を強めることは間違いない。
その兆候はすでに出ている。日本生産性本部の労働生産性国際比較によると、日本の時間当たり名目生産性(15年)はOECD加盟35カ国中20位という“中の下”クラス。これはホワイトカラーの長時間労働などがもたらしたもので、高度成長期以来の“定位置”になっている。
ところが、製造業(29カ国)に限ってみると、95年、2000年は2位のトップクラスだったのが、ここでピークアウト。21世紀に入ってからはどんどん順位を落とし、05年は14位、10年は10位、14年は11位まで後退している。
これにはさまざまな要因がある。国内市場の縮小や生産拠点の海外移転の結果、生産能力に比べて人員が余剰となっているため。また、新たな高付加価値製品を生み出す企業のイノベーションや産業シフトが遅れているため、などだ。こうした指摘はかなり前からあり、日本の産業競争力に警鐘を鳴らしてきたが、それが生かされなかった。
メーカー各社による一連の大規模不正と、製造業の国際競争力の低下を時間的に重ねると、ほぼ一致する。競争力の低下を高付加価値製品や生産性の向上などではカバーできず、無資格検査やデータ改ざんといった不正なコスト削減で対応してきたとみられても仕方がない。
それも限界に来たとなれば事態は極めて深刻であり、日産、神鋼だけの問題ではないことは明らかだ。競争力の低下に対して、政府も企業もどこか他人事として見過ごしてきたツケが回ってきたともいえる。不正を生み出す余地のない成長産業への転換を急がなければならない。これこそが、今回の事件からくみ取るべき教訓と思われる。(本間俊典=経済ジャーナリスト)