労働政策審議会は9月15日までに、「働き方改革関連法案」に関する計8本の法案要綱に「おおむね妥当」と答申した。これを受け、政府が目指していた「関連法案を一本に束ねて国会提出する」という準備が整った。与野党の対決法案として、重要広範議案に位置づけられるのは必至の情勢。28日召集の臨時国会冒頭で衆院解散となる公算が高まっているが、いずれにしても政府は年明けの国会も視野に法案を提出する構えだ。法案を巡る2015年10月以降の主な経過を時系列で振り返り、課題や着眼点を整理する。(報道局)
「働き方改革実現会議」の「実行計画」公表までの経過
【2015年10月】
29日=政府が「一億総活躍国民会議」を設置。議長は安倍晋三首相、議長代理は加藤勝信・一億総活躍担当相。このほか、関係10大臣と有識者15人で構成。
【2016年2月】
23日=国民会議が同一労働同一賃金の議論を開始。1月29日の同会議で安倍首相が「働き方改革」の一環として検討することを明言していたもので、「ガイドライン案」の年内策定に意欲。
【3月】
21日=「同一労働同一賃金」の導入を検討する有識者検討会を設置。事実上、内閣官房の主導で、委員は有識者7人。職種やその内容などで賃金や待遇の差などに合理的に説明が付く事例を具体的に示すガイドライン(指針)とともに、導入に必要な法整備などについて検討していくことを確認。
【5月】
18日=「一億総活躍国民会議」が今後10年間の中長期の政策を盛り込んだ「ニッポン一億総活躍プラン」を示す。プランの柱となる働き方改革では、非正規労働者の待遇改善を重要課題と位置づけ、「同一労働同一賃金の実現に踏み込む」と明記。
正規と非正規の間にある「合理的理由のない待遇の差」を明示するガイドラインを作成(年内メド)し、関連する法律(労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法)の改正を3年後の19年度実施とするスケジュールも提示。
【7月】
19日=経団連が「同一労働同一賃金の実現に向けて」と題する提言を発表。日欧の賃金制度が根本的に異なっていることなどを理由に、(1)わが国の賃金制度は多様であり、職務給を前提とする欧州型の導入は困難(2)現行法の考え方を基本的に維持すべき――など、あくまで現行法の枠内で検討し、法改正による規制は馴染まないとの見解示す。
28日=経団連が「経営トップによる働き方改革宣言」を発表。宣言は「誰もがいきいきと働ける職場環境の実現に向けた取り組み」と題して、(1)経営トップの明確な意思表明とリーダーシップの発揮(2)管理職によるマネジメントの徹底と自らの意識改革――を挙げた。
【8月】
1日=7月の参院選(半数改選)で、自民は当選者と後日の入党者を合わせ、27年ぶりに参院で単独過半数の議席を占める。
3日=第3次第2次安倍改造内閣の発足時に「働き方改革担当相」を新設。「一億総活躍担当相」の加藤勝信氏を兼務させる。16年度内(17年3月)に働き方改革の具体的な「実行計画」を取りまとめると宣言。
【9月】
27日=内閣官房を事務局とする政府の「働き方改革実現会議」を設置。議長に安倍晋三首相、議長代理に加藤担当相が就き、その他関係閣僚8人、有識者15人で構成。(1)同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善、(2)賃金引き上げと労働生産性の向上、(3)時間外労働の上限規制の在り方など、9つの検討テーマを挙げた。
【12月】
14日=15年の通常国会と今年の通常国会の2国会にわたって審議入りできず、未着手のまま継続審議となっていた労働基準法改正案について、衆院厚生労働委員会が会期末の臨時国会で「3度目の継続審議」を決めた。労基法改正案には(1)労働時間でなく成果で評価される「高度プロフェッショナル制度(高度プロ)」の創設や、(2)裁量労働制の対象となる企画業務型に、法人向けの課題解決型提案営業などを加える――などが盛り込まれている。
15日=自民党の働き方改革特命委員会(委員長・茂木敏充政調会長=当時)が、長時間労働の抑制や同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の処遇改善を盛り込んだ中間報告を公表。報告書には、働き方改革実現のための制度改正として(1)同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善、(2)時間外労働の上限規制のあり方など長時間労働の是正、(3)女性の活躍など、柔軟な働き方への環境整備――など6項目を提言。
16日=3月に設置された「同一労働同一賃金」のあり方を検討している有識者検討会が、不合理な待遇差を例示するガイドラインの「考え方」や「位置づけ」などについて中間報告をまとめた。賃金を決めるルールの明確化を強調したうえで、「ガイドラインの制定・発効にあたっては、適切な検討プロセスを経ることが望ましい」と記した。
20日=政府が「働き方改革実現会議」の会合で「同一労働同一賃金のガイドライン案」を提示・公表。「働き方改革」の一環で、公表されたガイドライン案には、「正社員と非正規の労働者の待遇差がどのような場合に認められるのか、認められないのか」などを事例とともに記した。ガイドライン案は、改正法の施行後に効力を持つ。
【2017年2月】
1日=政府の「働き方改革実現会議」が、検討テーマの中心となる長時間労働の是正について議論を本格化。政府は、労働基準法36条に基づき、制限のない残業を事実上認めている労使協定「36(サブロク)協定」に、罰則付きの残業上限を設けることを検討。他の検討テーマなどを含め、3月下旬に「実行計画」を取りまとめる方針を示す。
7日=「同一労働同一賃金」のあり方について検討している有識者検討会が、政府が働き方改革実現会議に示したガイドライン案を踏まえ、論点整理を開始。
14日=「働き方改革実現会議」が、長時間労働是正のため残業の上限を月60時間、年間720時間とする新制度案を提示。労働基準法改正案を年内に国会に提出し、2019年度にも運用を始めたい意向示す。
27日=経団連の榊原定征会長と連合の神津里季生会長が、残業時間の上限規制について東京都内で会談。3月中旬までの合意を目指して、繁忙期は1カ月の上限時間を100時間とすることを含む残業規制などについて意見を交わす。
【3月】
13日=残業時間の上限規制について、繁忙期における1カ月の上限を「100時間未満」とする流れが固まる。経団連の榊原会長と連合の神津会長が首相官邸で会談し、安倍首相が労使合意に100時間未満を明記するよう要請。
15日=「同一労働同一賃金」のあり方について検討している有識者検討会が、正社員と非正規労働者の不合理な待遇差などを是正する法整備に向けた報告書を公表。それぞれの委員の専門的知見に基づき、法整備に関する各論点について選択肢やその利害得失などをできるだけ幅広く挙げ、それらを掲載して「論点整理」(報告書)とした格好。
17日=「働き方改革実現会議」が、繁忙期に特例として認める残業時間の上限規制について「月100時間未満」とすることなどを決める。政労使が共同提案する形で同会議に提示。
28日=「働き方改革実現会議」が、同一労働同一賃金の導入に向けた法整備や残業時間の上限規制などに関する方針・施行までの工程を記した「実行計画」を決定。政府主導で半年間にわたって進めてきた同会議の「報告書と改革プラン」といった性格も持つ。
また、同一労働同一賃金の関連では、派遣社員の賃金が派遣先によって変動することを避けるため、(1)「同種業務の一般の労働者の賃金水準と同等以上」、(2)「能力を適切に評価して賃金に反映」など複数の要件を満たせば、派遣元と労使協定を結べる――という選択制「2方式」を記した。
政府の実現会議の「実行計画」を踏まえた労政審の経過と連合の動き
【4月】
7日=労働政策審議会の労働条件分科会が、「実行計画」に盛り込まれた「罰則付き残業上限規制」に関する労働基準法改正の議論を開始=写真。一方、政府は、2年前の通常国会に上程しながら審議入りに至っていない「高度プロ制度」の創設などを柱とする“もうひとつの”労基法改正案を、議論を開始した労基法改正と「一本化」する姿勢をにじませる。
27日=労働条件分科会が、(1)時間外労働の上限規制(2)勤務間インターバル(3)長時間労働に対する健康確保措置(4)その他の4項目のうち、(1)の限度時間等、適用除外等の取り扱い、新たな指針に盛り込むべき事項――の3点について議論。
28日=労政審に新設した同一労働同一賃金部会が初会合。「実行計画」を踏まえ、事務局の厚生労働省が、同一労働同一賃金に関する論点を直接雇用と間接雇用に分けて提示。労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の3法一括改正に向けた議論を始める。
【5月】
12日=労働条件分科会が、前回(4月27日)の主要論点だった残業時間の上限規制に加えて、「勤務間インターバル」と「健康確保措置」に関する論点整理について議論。
12日=同一労働同一賃金部会が、前回(4月28日)に引き続いて直接雇用の「短時間労働者・有期契約労働者」に関する法整備について議論。現行制度で均等待遇の規制がない有期契約労働者を、均等待遇規定のあるパートタイム労働法に合わせていくなどの法整備・整理を進める検討。
16日=同一労働同一賃金部会が、間接雇用の「派遣労働者」に関する均等・均衡に向けた法整備の議論。論点案として事務局の厚労省は、(1)派遣先の労働者との均等・均衡による待遇改善、(2)派遣元との労使協定による一定水準を満たす待遇決定――の2つの制度設計(派遣元の選択制)を提示。
30日=労働条件分科会に厚労省が「時間外労働の上限規制等について」の報告書案を提示。労使双方ともに異論はなかった。
30日=同一労働同一賃金部会が、前回(5月16日)に引き続いて間接雇用の「派遣労働者」に関する均等・均衡に向けた法整備のあり方を議論。選択制2方式について、公労使委員から現場運用と実務面の課題などを中心に事務局への質問や確認が相次いだ。
【6月】
5日=労働条件分科会が「時間外労働の上限規制等について」の報告書を了承。厚労相に建議した。この時点では、8月下旬に改正法の法律案要綱を労政審に諮問する見通しとなった。
6日=同一労働同一賃金部会に、事務局の厚労省が、正規と非正規の不合理な待遇差是正に向けた有期・パート、派遣の「均等・均衡」に関する法整備の報告書(建議)案を提示。報告書は法整備の骨格・骨子となる内容。
12日=同一労働同一賃金部会が「同一労働同一賃金に関する法整備について」の報告書を了承。初会合から1カ月余りで骨格・骨子の取りまとめにこぎ着けた。厚労省が改正要綱案の策定作業に入る。実務・運用面などの具体的な中身は国会の法案成立後に同部会で議論することが固まる。
【7月】
13日=15年4月に法案提出したまま審議入りに至っていない「高度プロ」創設などを盛り込んだ労働基準法改正案について、連合の神津会長が官邸で安倍首相に修正を直接要請。政府は、7月中に経団連、連合による「政労使合意」を締結する下地を整える。
27日=「高度プロ」創設などを盛り込んだ労基法改正案の修正について、連合は7月中の政労使合意を見送ることを機関決定。「修正による“事実上”の容認」から「これまで掲げていた反対姿勢」に戻った。政府は秋の臨時国会で、「高度プロ」創設なども束ねた形で「働き方改革関連法案」の一括成立を狙っていたが、連合の「方針再転換」によって国会審議の行方は予断を許さない状況となった。
【8月】
3日=安倍首相は、内閣改造(第3次安倍第3次改造)を実施。雇用・労働関連にかかわる閣僚では、2014年9月から約3年間にわたり厚労相を務めた塩崎恭久氏が退任。「一億総活躍担当相」で「働き方改革担当相」を兼務している加藤氏が厚労相兼「働き方改革担当相」に就任した。このほか、新設される「人づくり革命担当相」には、再入閣で経済再生担当相に就く茂木氏が兼務。
25日=政府が秋の臨時国会に一括法案(束ね法案)として提出を目指す「働き方改革関連法案」について、連合の神津会長は「高度プロ制度の創設や裁量労働制の対象業務拡大には反対の姿勢で労政審に臨む」と明言。
30日=厚労省は労働条件分科会に、残業時間の罰則付き上限規制などを柱とする労基法改正案と、2年以上前に国会に提出され審議入りに至っていない「高度プロ」創設などを盛り込んだ労基法改正案について、一本化する方針を正式に伝えた。労働者側委員は「趣旨が異なる」として一本化に反対、使用者側委員は「いずれも共通の理念で議論してきた」と賛成し、議論が持ち越された。
【9月】
4日=労働条件分科会は、前回(8月30日)に続いて「高度プロ」創設などを盛り込んだ労基法改正案(2015年法案)について労使委員が意見を交わしたが、意見が一致しないまま終了。厚労省は「2回の審議で議論は出尽くした」として、8日に同一労働同一賃金なども合わせた「働き方改革関連法案」として要綱案を一括提示することを決めた。
6日=同一労働同一賃金部会に対し、厚労省が同部会の建議(6月)を受けて策定中の3法改正(パート法、労契法、派遣法)に関する法案要綱の概要を説明。質疑は「派遣法の運用」と「3法の施行期日」に集中。この日は、3法いずれの施行期日も「検討中」とされたが、8日開催の労働条件分科会で、政府が目指す働き方改革の理念を盛り込んだ「基本法制定」のほか、「一本化する労働基準法改正案」などの法律案要綱の提示と合わせて3法の施行期日が明示される方向となった。
8日=労働条件分科会に厚労相が「働き方改革を推進するための関係法の整備に関する法案要綱」を諮問した。同要綱は、6日の同一労働同一賃金部会に示された労働契約法など関連3法の改正要綱を含めて一括諮問された。施行期日は原則として2019年4月だが、同一労働同一賃金の関係では中小企業に派遣法を除いて経過措置(1年猶予)が設けられた。
12日=同一労働同一賃金部会に、厚労省が3法改正に関する法案要綱を諮問。公労使委員から厚労省に対する質疑応答を経て、同部会として「おおむね妥当」と答申。前回会合(9月6日)は要綱の概要説明にとどまったが、8日の労働条件分科会で3法改正を含む「働き方改革関連法案」(8本セット)全体の正式な法案要綱が示されており、この日は要綱のうち、同一労働同一賃金に関する3法に絞って審議された。
15日=労働条件分科会は、厚労省から諮問のあった労働基準法の改正など「働き方改革を推進するための関係法の整備に関する法案要綱」について、「おおむね妥当」と答申した。同一労働同一賃金部会など他分科会による改正法案要綱はすでに答申されており、この日の答申で法案要綱がすべて出そろった。
この日の同分科会答申では、高度プロ制度の創設と裁量労働制の対象拡大に対して、労働者側委員から「対象業務の範囲の明確化、健康確保措置の強化といった修正がなされたものの、長時間労働を助長するおそれがなお払しょくされず、実施すべきではない」との意見があったことが付記された。
臨時国会の審議日程に余裕なし、解散で成立は年明け通常国会も視野
臨時国会は9月28日召集される。通常であれば、10月2日から4日まで各党による代表質問、同5日から衆院予算委員会へと進み、それを経てからでなければ「働き方改革関連法案」の審議に入れない。会期幅は2回の延長を使っても最大で12月上旬までが常道であり、衆参それぞれの厚生労働委員会の開催日程や首相の外交日程、土日・祝日なども見ていくと、8本を束ねた与野党対決法案としては審議日程にまったく余裕がない。
また、10月は10日に衆院小選挙区の補欠選挙(青森4区、新潟5区、愛媛3区)が告示され、同22日に投開票を迎える。11月初旬には米国のトランプ大統領が来日する方向で調整中だ。さらに、ここに来て「臨時国会の冒頭解散」や「補欠選挙の日程を念頭に置いた解散」が急浮上。政治日程の絡みで「働き方改革関連法案」の年内提出は困難と見られ、政府は年明けの通常国会も視野に入れた動きを探っている。
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