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2017年7月10日

官製色濃い最低賃金審議会

「前年並み」引き上げが焦点

 厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会(仁田道夫会長)が、このほど2017年度の最低賃金(最賃)の引き上げについて議論を開始した。昨年は全国加重平均で25円引き上げて823円と過去最大の引き上げ幅となったが、今年もその流れが続くかどうかが最大の焦点だ。その背景には、大幅引き上げを狙う政府の“圧力”があり、今年も「官製最賃」の色合いが濃い。(報道局)

 6月27日に開かれた同審議会には、厚労相から3月に政府が閣議決定した「『働き方改革実行計画』に配意した審議を求める」と諮問があった。実行計画では最賃について、「年率3%程度を目途として……全国加重平均が1000円になることを目指す」と明記しており、諮問は「これに沿った賃上げにして欲しい」と要請しているわけだ。

sc170710_2.png 昨年の16年度でも、厚労省は諮問で「日本再興戦略2016」や「ニッポン一億総活躍プラン」に配慮した審議を同審議会に求め、25円、3.1%の引き上げを実現させた。14、15年度ではこうした「配慮」要請は特になかったから、16、17年度と2年続いた「配慮」要請は政府の強い意向を反映している。政府は春闘でも経営側に大幅賃上げを要請しているが、春闘は労使交渉で決まるもので、政府の要請はあくまでお願いベースが建て前。これに対して最賃は最低賃金法に基づく法規制で、守らない場合の罰則規定もある。

 同審議会では非公開の「目安に関する小委員会」で3回程度議論し、7月下旬には結論を出すが、政府が要請する「3%程度」の上げ幅なら25円ほどの引き上げが必要となり、その場合は2年連続で20円台の大幅引き上げとなることから、支払い余力の乏しい中小企業側の反発が予想される。しかし、経営側委員からは「政府によって枠がはめられた以上、議論の余地は少ない」との声も出ており、引き上げ額は3%に近い20~25円の範囲内で決着する可能性が高いとみられる。

 厚労省によると、昨年の場合は25円引き上げる前の最賃額だった798円を下回っている水準で働く労働者比率を表す「未満率」は2.7%と過去10年で最大だった。さらに、引き上げ後の823円を下回る労働者比率を表す「影響率」は11.0%と初の2ケタを記録。最賃はこの1割余りの労働者の賃金引き上げを促したもので、主に中小企業に及ぼす影響の大きさを裏付けている。

 政府が大幅引き上げにこだわる理由は、「働き方改革」の重要な目玉である同一労働同一賃金の実現に、最賃が一定の役割を果たすとみられること。同一労働同一賃金は、主に正社員と非正規社員との賃金格差を縮小するのが目的だが、非正規社員の大部が時給に基づく賃金制度下で就労していることから、最賃の大幅引き上げが格差縮小に寄与すると考えられるためだ。

人手不足対策で賃金水準は上昇中

 これに対して、有識者などからは「最賃の大幅引き上げは企業の雇用減につながり、経営体力を奪いかねない」との批判も根強かった。しかし、近年の構造的な人手不足に対応するため、多くの企業が非正規社員の確保に向けて賃金増を受け入れざるを得ない立場にあり、現状はすでに最賃を上回る賃金水準にある職種が多い。

 アイデムのパートタイマー平均時給(募集時)によると、4月のパート時給は東日本で986円、西日本で968円。ディップのアルバイト平均時給(同)でも5月は994円で、1000円の大台を上下している。パートもバイトも賃金水準の緩やかな上昇傾向が今後も続くと予想され、最賃の大幅上昇が時給水準に大きな影響を及ぼす可能性は限定的、との見方が支配的だ。

 同審議会が7月下旬に決める金額は全国を加重平均した「目安」。東京など賃金水準の高い「Aランク」地域から、沖縄など水準の低い「Dランク」地域まで、都道府県を4ランクに分け、各都道府県の最低賃金審議会が各ランクの「目安」を基にして8月下旬に最賃額を決定、10月から順次実施する。
 

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