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2017年6月19日

「働き方改革」残業減の副作用

サラリーマンの小遣いを直撃!?

 「働き方改革」では官民挙げて「残業を減らせ」の大合唱――。しかし、残業が当たり前の多くの日本企業にとって、残業削減は会社にも社員にも大きな副作用を伴う。手っ取り早く現れる副作用は、給料の減少だ。(報道局)

 厚生労働省の毎月勤労統計によると、3月の現金給与総額(確報)は27万8677円で、昨年9月の伸び率0%以来、5月連続でプラスを維持してきたのが、6カ月ぶりの0%に逆戻りした。4月(速報)は0.5%増と盛り返したものの、官製春闘によって毎年、多くの企業で賃上げが行われた割には、手取り収入がいまひとつ増えない。なぜだろうか。

 最大の理由は、残業の減少にあるようだ。2016年度は月間の実労働時間が平均143.3時間(同0.8%減)で、正社員が主力の一般労働者が168.3時間(同0.4%減)、パートタイム労働者も86.8時間(同2.1%減)といずれも減少し、パートの減少幅が大きい。

 実労働時間は12年度から5年連続のマイナス続きだが、その主要因は通常勤務時間である「所定内」労働時間が5年連続で減っているため。その分、残業の「所定外」労働時間でカバーしてきたが、その「所定外」も15、16年度と2年続けてマイナスになった。

 これらの統計数字から推定できることは、「働き方改革」を先取りした企業が、毎年、労働時間を減らして「働き過ぎ」批判に対応しているものの、その結果、サラリーマンの残業代の減少が賃上げの勢いを削ぎ、手取り収入が思ったように増えていないことだ。

 政府が強力に推進している「働き方改革」は過労死撲滅が基本目標であり、「過労死ライン」とされる残業を月80時間以内に抑えるため、労働基準法を改正して罰則付きの絶対上限を設けるもの。それ以下の残業については、基本的に経営側と労組(社員)の取り決めに任せるという姿勢だ。従って、多くのサラリーマンにとって、1日2~3時間程度の残業は法的には今後も許容範囲内だ。

 しかし、経営側にとっては「仕事の効率化=生産性の向上」を図らないと生き残りが厳しい環境になっていることから、大勢は残業を減らす方向に動いている。それが労働時間の長期減少となって表れているが、労組などからは「残業時間を少なめに申告したり、家に持ち帰るサービス残業が横行している」との批判も絶えない。それは手取り収入の減少を助長している。

問題多い残業の一律削減

sc170619.jpg それを色濃く反映しているのがサラリーマンのフトコロ事情。新生銀行が昨年6月に発表した「サラリーマンのお小遣い調査」によると、16年の平均小遣いは1カ月あたり3万7873円で、1982年の3万4100円、15年の3万7642円に次ぐ過去3番目の低さ。バブル景気当時の7万円超からほぼ半減しており、近年は4万円台から毎年ジワジワ下がり続けているのが特徴だ。景気動向というより、労働時間の削減が要因となっていることは間違いない。ちなみに、飲み会の1回あたり支払いは5102円となっている=写真

 一方、非正規社員の場合は時給がベースであり、労働時間が減ればその分はそっくり手取り減となるが、近年は正社員より労働時間の削減率が高くなっている。これはフルタイムのパートより、女性や高齢者などの短時間パートが増えているためとみられるが、パート労働者の中には収入増のため労働時間を増やしてほしいと希望している人も多いため、一律に労働時間を削減するのは問題が多い。

 これまで夫だけが働いていた家庭に、育児休業などを終えた妻が労働市場に“参戦”するようなケースであれば、世帯収入は増えるため、残業減はプラス効果の方が大きい。しかし、どちらかだけの片働き世帯などの場合は、必ずしもプラスに働かないことが、小遣い調査などからある程度推定できる。

 一律の残業減より、働く側の希望に沿った残業対策が当面は望ましいということになるが、そもそもは残業に頼らなくても生活できる「所定内」給与の増加が正道であろう。しかし、そのためには生産性の向上が欠かせないため、企業にとっても社員にとっても、しんどい局面が続きそうだ。
 

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