労働政策審議会の同一労働同一賃金部会(守島基博部会長)は6月9日、正規と非正規の不合理な待遇差是正に向けた有期・パート、派遣の「均等・均衡」に関する法整備の報告書(建議)を取りまとめた=写真。労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の3法にまたがる議論を一括で行うために新設された同部会は、4月28日の初会合から春の大型連休を挟んだ計6回の“集中審議”で、政府の「働き方改革・実行計画」(3月28日公表)に沿った内容で整理された。しかし、今秋の法案提出に向けた段取り(手続き)として、急ピッチに骨格・骨子を固めたに過ぎず、実務・運用面など最も注目される部分は「これから詰めていく」(厚労省)ことになる。これまでの経過や今後の展開を点検する。(報道局)
秋の臨時国会への法案提出を念頭に置いた流れ
「働き方改革」に関連した労働法改正に向けた動きは、「均等・均衡」を進める同一労働同一賃金のほかに、労働基準法改正を中心とする「罰則付き残業規制」(長時間労働是正)が2本柱で同時進行してきた。その情報が今春以降、各種媒体から同時または交互に発信され続けてきたことも相まって、経営層と労働者の両方で現状をしっかりつかみ切れていない人も少なくない。
政府が2019年4月の施行を目指す同一労働同一賃金について、まずは経過とポイント、今後の流れをまとめてみる。
【2016年6月】
2日=政府の中長期の政策「ニッポン一億総活躍プラン」に、「同一労働同一賃金」の実現などを明記。閣議決定する。
【12月】
20日=政府の働き方改革実現会議が、同一労働同一賃金のガイドライン案を公表。導入の目的は、同じ企業や団体の中で正社員と非正規の労働者の不合理な待遇差の是正とした。間接雇用の派遣のあり方については、「派遣先の労働者との均等・均衡」に関する考え方のみが簡潔に6行だけ記された。
【2017年2月】
7日=前年12月16日に「中間報告」を提出していた厚労省の有識者検討会が、「同一労働同一賃金の法制化」について、政府のガイドライン案を踏まえた議論開始。
【3月】
15日=厚労省の有識者検討会が、正社員と非正規労働者の不合理な待遇差などを是正する法整備に向けた論点整理(報告書)を公表した。派遣労働者の派遣先労働者との均等・均衡待遇については、各委員の見解や意見を記したうえで、「複数のアプローチがありえるため、今後、労働政策審議会で議論を尽くす必要がある」とし、パートタイム労働者における均等・均衡待遇とは異なる制度上の難しさと課題が浮き彫りとなった。
28日=働き方改革実現会議が「実行計画」を公表。派遣については、ガイドライン案で記した派遣先均衡に加えて、派遣社員の賃金変動回避を念頭にした3条件付きの労使協定案が盛り込まれた。
【4月】
28日=労政審・同一労働同一賃金部会が初会合を開き、「実行計画」に沿い厚労省が論点を提示した。まず「短時間労働者・有期契約労働者関係」と「派遣労働者関係」の大きく2つに分類。前者はパートタイムとフルタイムを問わず、同じ直接雇用の枠に入れて課題を整理しており、パート法と労契法に関係。後者は間接雇用として派遣法に関係するが、同部会は前者と後者を切り分け、前半で議題とする「短時間労働者・有期契約労働者関係」の分の論点だけを示した。
【5月】
12日=労政審・同一労働同一賃金部会の第2回会合では、前回に引き続いて直接雇用の「短時間労働者・有期契約労働者」に関する法整備について議論された。現行制度で均等待遇の規制がない有期契約労働者を、均等待遇規定のあるパートタイム労働法に合わせていくなどの法整備を進める意見が相次いだ。
16日=労政審・同一労働同一賃金部会の第3回会合で、間接雇用の「派遣労働者」に関する均等・均衡に向けた法整備の議論を始めた。論点案として厚労省は、(1)派遣先の労働者との均等・均衡による待遇改善、(2)派遣元との労使協定による一定水準を満たす待遇決定――の2つの制度設計を提示した。
30日=労政審・同一労働同一賃金部会の第4回会合は、前回に引き続いて「派遣労働者」に関する均等・均衡に向けた法整備のあり方を議論した。厚労省が提示した(1)派遣先の労働者との均等・均衡による待遇改善、(2)派遣元との労使協定による一定水準を満たす待遇決定――の2方式(選択制)について、公労使委員から現場運用と実務面の課題などを中心に厚労省への質問や確認が相次いだ。
【6月】
6日=労政審・同一労働同一賃金部会の第5回会合で、厚労省が、正規と非正規の不合理な待遇差是正に向けた有期・パート、派遣の「均等・均衡」に関する法整備の報告書(建議)案を提示した。
9日=労政審・同一労働同一賃金部会の第6回会合で、公労使委員が「同一労働同一賃金に関する法整備について」の報告書を了承した。6月16日に労政審として正式に建議し、厚労省は改正要綱案の策定に入る。実務・運用面などの具体的な中身は国会の法案成立後に同部会で議論する。
今後の流れと派遣の「2方式」の課題
政府は同一労働同一賃金に関する法整備の法案について、今秋の臨時国会への提出を目指している。そのためには...
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