来春卒業の大学生の就職活動は、6月1日から企業側の選考面接が解禁となることから、内定者が一気に増えると予想される。人手不足を背景に、今年も新卒者側の超売り手市場となっており、経団連が定めた採用指針の形骸化が著しい。新卒の採用計画を達成できるかどうか、企業側の焦りは高まっており、日本の「新卒一括採用方式」は曲がり角に来ている。(報道局)
経団連は傘下企業に対して、3月から企業説明会、6月から選考面接、10月内定という紳士協定を定めている。しかし、リクルートキャリアによると、5月1日時点の大卒内定率はすでに34.8%となり、前年同月比9.8ポイント増。昨年は6月の面接解禁から8月にかけて、内定率は一気に50~80%台に急上昇したが、今年はそれ以上のペースで内定率が高まる短期決戦の様相が強い。
ディスコの調査でも同様の結果が出ており、5月1日時点の内定率は37.5%で同8.4ポイント増。調査はかなり詳細で、内定率の高い業界は情報処理・ソフトウエア、建設・住宅・不動産、調査・コンサルティングなど。企業規模では、従業員1000~5000人未満の中堅企業の内定率が32.6%で最も高いが、これは例年の傾向と変わらない。
注目すべきは、従業員5000人以上の大企業が24.0%と昨年を3.3ポイントも上回っている点だ。経団連傘下の企業でも、なりふりかまわぬ採用の前倒しがまん延していることがうかがわれ、同社は「大企業における日程ルールの形骸化が進んでいるのだろうか」と疑問を呈している。
こうした企業側のルール無視に加え、今後は学生側の「内定辞退」と企業側の「内定者囲い込み」が激しくなるのは必至。内定率が90%前後に達する9月ごろまでは両者の“駆け引き”が続くとみられ、昨年は内定学生を逃がさないために「海外研修」を実施する企業さえあった。両者間のトラブルが頻発する懸念があり、一括採用の弊害が露骨に出て来る時期でもある。
6月からは、東京など大都市に本社のある企業も、企業説明会に学生に来てもらうだけでなく、人事担当者らが大学や地方に出向き、説明会に参加してもらうよう働き掛ける企業が増えそうだ。同時に、若者雇用促進法や女性活躍推進法などで、大企業は給与・昇進、労働時間、有給休暇、産休・育休、女性管理職比率などの情報開示を義務付けられており、学生側にとって企業選びの有力な材料が増えている点は間違いない。
揺らぎつつある?大企業信仰
企業の採用が困難になっている背景には、生産年齢人口の減少と同時に、好景気が緩やかながら長期に渡って続き、人手不足が慢性化している点がある。近年は、団塊の世代が企業の65歳雇用義務から完全にはずれたうえ、1990年代後半~2000年代前半の「就職氷河期」に多くの企業が採用を控えたり、採用枠を大幅に縮小したツケが回ってきて、中核となる正社員の絶対数が不足気味になっているという事情がある。
社員の世代構成がいびつになっている企業も多く、不足分は中途採用を増やすなどして埋め合わせを図っているものの、給与水準や年金制度などが転職組に不利になりがちな就労環境の改善は十分とは言えず、中途採用を強化しても現行制度下では限界があるのが実情だ。
各種調査によると、学生側の「大企業信仰」には根強いものがあるが、東芝の経営破綻や電通の過労死事件などが相次いだことから、「ワークライフバランスを実現できる会社」に対する人気が高まっており、もはや「大企業」だけではセールスポイントにならないようだ。企業側にとっては、「ブラック企業」のイメージを持たれないよう、十分な説明を尽くす努力が例年以上に求められており、これから厳しい内定の季節が始まる。