政府が進める「働き方改革」では残業規制と同一労働同一賃金が主要テーマになっているが、社員の退社から出社まで一定の休息時間を義務付ける「勤務間インターバル制度」の本格導入の行方も見逃せないテーマだ。しかし、企業側の意識は総じて鈍く、普及には時間が掛かるとみられる。厚生労働省は今週から「勤務間インターバル制度普及のための有識者検討会」を開いて導入促進を図るが、どこまで踏み込んだ政策を打ち出せるか注目される。(報道局)
勤務間インターバルは、通常、残業規制とセットで実施され、長時間労働を是正して労働者の労災や健康被害を防ぐ制度。EU(欧州連合)ではすでに法的規制があり、仕事を終えた時刻から翌日の仕事開始時刻まで11時間以上を開けなければならない。しかし、日本では残業自体が事実上の青天井となっており、インターバルを導入している企業はまだ少数にとどまっている。政府の「働き方改革実現会議」では残業規制と同様に、インターバルについても法的規制の網を掛けることを検討したが、使用者側などの反対によって企業の努力義務にとどまり、政府は導入を支援していくことで落ち着いた。
厚生労働省の委託調査(2015年)による勤務間インターバル調査(1743社)では、導入している企業の比率はわずか2.2%で、94.9%の圧倒的多数の企業は導入していない。また、導入していない1654社のうち、導入予定か導入を検討している企業は8.6%に過ぎず、検討予定のない企業が60.5%を占めるなど、企業側の意識はまだ低いのが実情だ。
導入企業の場合も、インターバル時間帯別ではEUの基準以下の「7時間超~8時間以下」が最も多い28.2%を占め、EU並みの時間帯を設けている企業は28.2%にとどまっている。仮に午前8時~午後5時(昼休みが1時間)の8時間勤務制で、インターバル時間が8時間の場合、翌日が通常出勤なら前日の残業は午前零時まで可能になる計算。通勤時間などを考慮すれば睡眠時間は5~6時間程度しか取れず、これが数日続けば通常は疲労で作業効率は落ちる。労働法学者らからは「疲れを持ち越さないためにはEU並みの11時間は必要」との声が多い。
ホンダは1970年代から導入した先進企業で、インターバル時間は最低12時間。KDDIは全社員を対象に8時間、聖隷三方原病院では看護職員を対象に11時間、今年1月から導入したユニ・チャームは全社員を対象に8時間など、企業によってインターバル時間の設定はさまざまだが、11時間を努力目標にしたり、最低ラインが何日も続く場合は健康診断を義務付けるなど、実効性を持たせる工夫を施している。働き方改革が昨今の社会的課題となり、「社員を大切にする会社」という企業イメージを高めるために導入に踏み切る企業が、今年は増えると予想される。
手が回らない中小企業を政府が支援
ただ、これまでのところ、導入している企業は優良大企業がほとんどで、人手不足が深刻化している多くの中小企業にとって、勤務間インターバルを導入する余裕はない。厚労省は16年度から導入する中小企業に対する助成制度を開始。9時間以上のインターバルを対象に、研修費用などの4分の3を助成。上限は40万~50万円で、17年度は予算4億円を確保した。
制度導入を議論している労働政策審議会の労働条件分科会は、残業は労働基準法改正などの法的規制で強めるのに対して、勤務間インターバルは企業ごとの実情に応じた柔軟な運用が必要になることから、労働時間等設定改善法を改正して努力義務にとどめ、同法の指針の中で「終業時刻及び始業時刻」という項目を設け、労使で具体的に検討する方向で調整している=写真。有識者検討会も、これをベースに議論するとみられるが、実効性のある政策提言ができるかどうか注視される。