企業の人手不足が一段と深刻になっており、外食など労働集約型の産業では大幅な営業時間の短縮などを余儀なくされている。このため、エコノミストの間では「労働需給のひっ迫が経済成長を抑制する壁になる」との分析も出ているが、問題は労働力不足そのもの以上に、それが賃金上昇や生産性の向上に結び付かないところにありそうだ。(報道局)
昨年の平均有効求人倍率は1.36倍(前年比0.16ポイント増)、新規求人倍率も2.04倍(同0.24ポイント増)でいずれも7年連続で上昇した。一方、平均失業率は3.1%(前年比0.3ポイント減)となり、6年連続で低下した。
この勢いは今年に入っても止まらず、最新の2月の有効求人倍率(季節調整値)は1.43倍と高止まり状態のままで、バブル崩壊後の1991年後半に並ぶ水準。完全失業率(同)は2.8%で、94年12月以来の2%台に突入し、完全雇用状態にある。多くのエコノミストが完全雇用を「3%台」としていたが、あっさり予測を覆した。
ファミレス業界は「24時間営業」から続々撤退
その結果、外食、小売り、宅配、建設など、多くの人手を必要とする産業は深刻な労働力不足に見舞われ、抜本的な対策に追われている。宅配最大手のヤマト運輸はネット通販のアマゾンジャパンと提携して配送を請け負っていたが、扱い量の急増と留守宅への再配達などでドライバー不足に陥り、一部サービスの値上げや縮小の検討に入った。同業他社も追随する動きをみせている。
外食のすかいらーくは24時間営業を大幅に縮小して、深夜時間帯は営業しない店舗を大幅に増やした。すでにロイヤルホストなど、他の外食企業も順次実施しており、ファミレス利用者にはおなじみの「24時間営業」は次第に過去のものになりつつある。百貨店、スーパーでも営業時間の短縮や休日増加へ流れが進んでいる。
こうした一連の動きは、人手不足対策と客離れによる売り上げコストの増加が主要因だが、宅配業界のように仕事だけは増える「利益なき繁忙」の様相を見せている業界も少なくない。サービス業界は非正規労働者が大量に就労しており、人手不足を背景にパート、アルバイト、派遣などの賃金はここ数年でジワジワ上昇を続けているが、その多くが短時間勤務のため、全体的な賃金増加にはそれほど寄与せず、個人消費がもう一つ活性化しない要因となっている。
これに加えて、人手不足の別な側面でもあった正社員の長時間労働が社会問題となり、政府主導で法改正などを通じた是正に動き出した。残業時間が減れば残業代も減り、それだけ手取り収入の減少になるため、現役サラリーマンたちには戸惑いが広がっており、これも消費活動の抑制要因になりかねない。その意味で、雇用のひっ迫が「成長の壁」となる可能性は否定できない。
女性、高齢者を中心に労働力人口は増加中
ただ、人口減を背景に生産年齢人口(15歳以上~65歳未満)は今年3月時点で7656万人と一貫して減少しているものの、労働力人口(就業人口と失業人口の合計)は6615万人で2013年から4年連続で増えている。15歳以上の人口減少、高齢化の進展で生産年齢人口は減っているが、それを補うように女性や65歳以上高齢者の就業が大幅に増えているためで、「現時点では労働力人口の減少が経済を下押しする形とはなっていない」(斎藤太郎・ニッセイ基礎研経済調査室長)と過度な悲観論に疑問を投げ掛けるエコノミストもいる。
しかし、「一億総働き」の流れにも限界はあり、大量の非正規労働者を低賃金で雇用し、消費者に便利な「24時間営業」「年中無休」などの“過剰”サービスで競争する時代は終わった可能性が高い。今後は、より生産性の高い成長産業に就労する人が増えるように、スムーズな労働移動のできる制度設計が必須。就労者数がわずかでも増えている現在、今後、それができるかどうかが人手不足の緩和を占うポイントになりそうだ。